IoTのオープン化をけん引する「坂村2.0」

トロンプロジェクトのスタートから32年、自身も大きな節目迎える

 「トロン」というと、「日本がパソコン用のOSを作ろうとしてアメリカに潰されたやつね」「かつて騒がれたけれど今はないんじゃないの」という反応をたまにされることがあります。しかし、その認識は正しくありません。

 実際には本来のリアルタイム組み込み用OSとして普及していて、現行のOSである「Tカーネル」関連ソフトを利用している組織の所属国は2016年で83カ国、同じくダウンロード数も今年だけで1万1393組織。デジタルカメラやプリンターといった電子機器から、スマートフォンが基地局と電波をやり取りするアンテナの制御、クルマのエンジン制御、人工衛星などにまで幅広く使われています。

 つまりは、組み込み用なので一般の人には目にしたり耳にしたりする機会があまりないというのが実情なのでしょう。それどころか現在では、当初から「オープン」「リアルタイム」「分散型」という特徴を備えたトロンの技術が、IoT(モノのインターネット)を実現するための基盤ツールとして急速に存在感を高めています。

 「10年以上も前からIoTの研究は進められていたが、今年は実社会への貢献が始まる年。トロンプロジェクトではオープンな技術、(公共交通や地方行政のオープンデータ協議会など)オープンなプラットフォームをベースに、オープンIoTを目指していく」。「IoT動く」をテーマに、12月14−16日に都内で開催された「2016トロンシンポジウム/トロンショー」(トロンフォーラム主催)。

 冒頭の基調講演でトロンの生みの親である東京大学の坂村健教授(トロンプロジェクトリーダー/トロンフォーラム会長)は、目指すべきIoTの方向性についてこう強調しました。

 坂村教授によれば、今後さらに重要になってくるのが「オープンAPI」。モノや人の情報を区別することなく、しかも組織の外部のさまざまな情報も含め、ネットワークを通じて自動連携する時代になるといい、その橋渡し役を果たすのが、オープンなAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)。

 そして、IoTの先には、オープンAPIによって各種サービスを自動連携させる「IoS(インターネット・オブ・サービス)」や、オープンAPIをもとに形作られる経済システム「APIエコノミー」が出現すると見通しています。

 こうした将来構想の下、坂村教授は「アグリゲートコンピューティング」も提唱しています。メーカーの枠を超えてネットワークに接続されたセンサー・機器・サービス・システムを融合し、アクセス制御やガバナンスも含む高度な機能をクラウドで制御することで、その場に合った最適な環境を提供するコンピューティングアーキテクチャーを言います。

 トロンプロジェクトではIoT機器を開発するための標準開発環境である「IoTエンジン」を今年公開し、すでに世界7社の半導体メーカーが機器制御用のコントローラーチップに採用を始めました。

 さらに、トロンプロジェクトでは、アグリゲートコンピューティングのプラットフォームとなるIoTアグリゲーターの構築を進めています。IEC(国際電気標準会議)の機能安全規格に沿ったリアルタイムOS「トロン・セーフカーネル」も現在開発中で、2017年に公開予定ということです。

 リアルタイム組み込みシステムのためのオープンアーキテクチャーに取り組むトロンプロジェクトは1984年にスタートしました。トロンショーも1986年以来30年となり、永年に渡って活動を引っ張ってきた坂村教授もいよいよ東大を退官するという、大きな節目を迎えています。
(文=藤元正)

日刊工業新聞2016年12月19日

藤元 正

藤元 正
12月20日
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坂村氏は来年4月、東洋大学に開設される情報連携学部(INIAD)の学部長に就任予定。しかも、同学部が入る新設の赤羽台キャンパス(東京都北区)の「INIAD HUB-1」と名付けられた校舎は、全設備をAPIで制御できるオープンIoTビルとなっています。日本発のトロンがIoTのオープン化をどこまでけん引していくか、トロン2.0ならぬ「坂村2.0」の活躍にも注目です。

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