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認知症に“先制攻撃”、神経細胞死を未然に防止

2025年は700万人、早期診断・治療へ努力続く
 精神機能が慢性的に減退・消失し、生活に支障が生じてしまう認知症。症状が進行すると家族をはじめとする介護者の負担も大きくなるが、高齢化などに伴って患者数は加速度的な増加が見込まれている。この影響を緩和するには病気になることを未然に防ぐ発想や、症状が出始めた段階での的確な対処が求められる。認知症への“先制攻撃”を実現すべく、国や製薬企業、医療機関といった関係者の努力が続いている。

 2012年に462万人、25年は700万人―。これは厚生労働省が推計した国内認知症患者の数だ。25年には高齢者の5人に1人が認知症を患うとされている。日本は医療費の伸びを可能な限り抑えつつ、患者や家族への支援を充実させるという難題に立ち向かわねばならない。

 こうした状況下では新規治療薬の創出を担う製薬会社への期待は大きい。認知症が進行してしまった人への対処は当然重要だ。

 一方で罹患(りかん)を未然に防いだり、病気の初期段階で治療をしたりする取り組みも求められる。健康上の問題がなく自立して日常生活を送れる期間の健康寿命が伸びれば、医療費の抑制にもつながりうる。

 そこでエーザイは、アルツハイマー型認知症(AD)の次世代治療薬「E2609(開発コード)」の開発に力を注いでいる。

 米国で第3相臨床試験を16年10月に開始し、11月には米食品医薬品局(FDA)から審査の迅速化を図る枠組みであるファストトラックの指定を受けた。エーザイは同剤を20年度以降のできるだけ早い時期に発売したい考えだ。

 人がADになる過程は完全に解明されてはいないものの、たんぱく質の一種であるアミロイドβ(Aβ)が原因の一つと考えられている。エーザイはAβを減少させることで病態の進行を抑制することを目指し、E2609を創製した。

 Aβはもともと、アミロイド前駆体たんぱく質(APP)と結合した状態で存在している。だが酵素の働きによってAPPが切断され、残ったAβが凝集してしまうと神経細胞死が引き起こされる。E2609はこの酵素の一つであるBACEを阻害することでAβの減少につなげる。

 エーザイは同剤の第2相臨床試験において陽電子放射断層撮影(PET)を活用したスクリーニング(ふるい分け)を実施し、それによってAβの蓄積が確認された軽度認知障害(MCI)患者や早期―中等度AD患者を対象とした。この結果、同剤の良好な安全性が示唆されるとともに、Aβ総量の減少も示されたという。

 ただ、医薬品開発では規模の大きい第3相試験で有効性や安全性に問題が生じ、発売を断念せざるを得なくなることも多い。米製薬大手イーライリリーは11月、軽度AD患者を対象とした「ソラネズマブ(一般名)」の第3相試験で主要評価項目を達成しなかったとして承認申請を行わない方針を示した。2100人超の患者を対象にしていただけに、費用面の損失は大きい。

E2609も第3相試験のうち、最初の試験に早期AD患者1330人を組み入れる計画だ。エーザイは失敗のリスクを乗り越え、新薬発売にこぎ着けられるか注目される。
              

日刊工業新聞2016年12月15日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
最近、睡眠不足が続いている。慢性的な睡眠不足とアルツハイマー病の相関を指摘する研究も発表されている。自己管理できることもある。しっかり寝ようと自身に言い聞かせながら、このコメントを深夜に書いている・・。

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