ANAが宇宙ベンチャーに出資した舞台裏

PDエアロスペース、宇宙機開発を加速

 宇宙機開発ベンチャーのPDエアロスペース(名古屋市緑区、緒川修治社長、052・621・6996)が、宇宙旅行など宇宙輸送事業の2023年開始に向けた一歩を踏み出した。ANAホールディングス(HD)、エイチ・アイ・エス(HIS)と資本提携し、合計5040万円の出資を受けた。17年2月には本社機能を移転し、エンジンなどの開発を本格化する。

ANAHD社長、出張帰りの来訪


 9月8日。江戸時代の街並みが残る名古屋市緑区の有松にANAHDの片野坂真哉社長の姿があった。名古屋出張の帰路、PDエアロを訪ねた。プレハブの事務所と作業場を案内した緒川社長は、片野坂社長が興味深く説明を聞く様子に手応えを感じた。その後、資本提携が決まった。

 HISには09年から資金援助を受けている。PDエアロが参加したビジネスコンテストの審査委員長だった澤田秀雄HIS会長兼社長に、緒川社長が直談判したのがきっかけだ。緒川社長はANAとの件を澤田会長兼社長に伝え、HISにも出資を依頼。2社との資本提携がまとまった。

 今後、2社からの追加出資が期待されるほか、信頼性が高まったことにより、出資者が増える可能性もある。資金面では大きく前進した。

エンジン開発がカギに


 今後は厳しい開発スケジュールが待ち受ける。17年10月までに、事業化のカギであるジェット燃焼とロケット燃焼を切り替えるエンジンの実証実験を完了させる。18年10月には無人機で、20年10月には有人機で高度100キロメートルへの到達を目指す。緒川社長は「尋常でないスピードで開発を進めなければならない」と決意を示す。

 本社機能の移転はその転機となる。登記上は現本社を残すが、愛知県碧南市の金型メーカー、サワテツの工場の3階に移る。事業の趣旨に賛同する同社から間借りできることになった。床面積は126平方メートルと現在の約8倍に広がる。工作機械を借りられるため、開発体制が充実する。

 人員拡充も進める。現在は4人体制だが、早期に3人を加える。開発者2人と、片腕として動ける人材を探している。ほかにもボランティア、インターンシップと幅広く参加を呼びかける。緒川社長は「資本提携が追い風になってくれれば」と期待する。事業化する23年には、60人ほどの体制を目指す。

 2社との資本提携は資金、人材両面で大きな成果が見込める。外部との開発連携を模索しているが、その交渉も進めやすくなる。強力な後ろ盾という推進力は得た。滑走路を駆け抜ける時がきた。

(文=名古屋・戸村智幸)

日刊工業新聞2016年12月9日付

杉本 要

杉本 要
12月13日
この記事のファシリテーター

 ANAとHISが、宇宙機開発ベンチャーのPDエアロスペースに出資を決めました。PDエアロが開発を目指す「宇宙機」は通常の飛行機のように滑走路を離陸し、上空で燃焼モードを切り替えて宇宙空間に達するという新しい概念の機体です。この核となるエンジンを開発できるかがプロジェクトの成否を握ります。
 以前から緒川社長を存じ上げていますが、この分野のベンチャーには「本当にできるの?」という疑問の声も当然寄せられます。「夢物語だ」との指摘すらある。しかし彼らは本気なのです。そもそも、夢のない、現実的な宇宙ビジネスなどあり得ないのではないか。今回の出資は、こうした夢に賛同する人たちからの応援だと思います。
 と同時に、今後は事業化スキームの確立やさらなるスポンサー探しも必須です。とてつもなく難しいですが、周囲が吃驚仰天するような開発を、ぜひ成し遂げてほしい。

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