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ピカソとモネを見分けるハトはなぜ生まれたか

【1】イグ・ノーベル賞受賞者に聞く。「戦前の日本は学問を楽しみ、支える文化があった」
ピカソとモネを見分けるハトはなぜ生まれたか

慶応義塾大学名誉教授・渡辺茂氏

 慶応義塾大学の渡辺茂名誉教授は1995年にピカソとモネを見分けるハトでイグ・ノーベル賞を受賞した。いまではハトは乳がんを見分けるようになった。動物の知能研究は盲導犬や伝書バトなどの基礎となる分野だ。

ーカリフォルニア大が85%の精度で乳がんを判別させました。
 「彼らは旧来の研究仲間だ。私が論文の査読を担当し、すぐに素晴らしいとメールした。我々も10年前からやりたいと思っていたが機会に恵まれなかった。研究が成功してひとえにうれしい。鳥とヒトでは知能の進化系統が違う。機能と構造を比較することで心と脳の関係を解明できる」

ー基礎研究は予算獲得が難しいです。
 「基礎も『役に立つ』と申請書に書かないと予算をとれなくなった。すべての研究が初めから実用を考えなくても良い。基礎は多様性が重要だ。実用を求めてバイアスが働き、脳科学は精神疾患治療のための研究になってしまった。研究の幅が絞られている。多様性を保つには、ある程度はバラマキが必要だ」

ー実用性を訴えて予算をとり、内々では理学を追究する基礎研究者が多いです。
 「それを必要悪と認めてしまえば、若い研究者がどう育つだろうか。基礎研究者が『お役に立ちます』と屁理屈をこね続けていると、いつのまにかそれが自分でも本当に思えてきてしまう。実用研究はそのための専門性が必要で、そのための専門家を養成すべきだ」

ー済価値を計れない科学を誰がどう支えたらいいですか。
 「先進国しか基礎を支えられない。科学は人類共通の財産だ。米国のすべてをビジネスに結び付ける文化を日本がまねる必要はないだろう。戦前の日本は学問を楽しみ、支える文化があったと思う」
日刊工業新聞2016年11月23日の記事に加筆
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
人工知能はまずはハトを超えなければいけません。実現はしていませんが、動物の認知識別能力を工場の検査に応用しようとした企業もあったそうです。ハトはピカソとモネに加えて、ゴッホとシャガール、児童画の上手い下手も見分けたそうです。文鳥は英語と中国語、作曲家も判別するそうで、知能の進化の形はいろんな系統があります。基礎の研究ほど純粋な面白さがあります。 (日刊工業新聞科学技術部小寺貴之)

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