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苦境の鉄鋼業界、この1年で何が変わったのか

円高、原料炭高に泣く
苦境の鉄鋼業界、この1年で何が変わったのか

市況底割れに始まり、結局、試練続きの1年だった(イメージ)

 昨年末に中国市況が底割れし、最悪のスタートだった2016年。結局、試練続きのまま1年を終えようとしている。まずは年初の円高・株安で出足をくじかれた。今や鉄鋼も輸出比率が高まり、円高はマイナス要因。株安で企業の設備投資意欲が落ち込み、内需の減退に効いた。6月には英国の欧州連合離脱問題でさらに円高が加速。外貨建て資産の評価損なども膨らみ、新日鉄住金やJFEスチールなど鉄鋼大手が赤字に転落した。

 中国の鋼材市況の乱高下にも振り回された。春先に鋼材価格が急上昇し、「海外から、さばききれないほどの注文が入っている」(普通鋼電炉の役員)という活況を呈した。低迷が続く鋼材市場も上向いたかに思われたが、大型連休明けには失速。後には「大量の明細が残っただけ」(同)と言うように、少ない需要を先食いしただけで注文はぱたりとやんだ。

 目下の試練は原料炭の高騰。9月まで1トン当たり92・5ドルだった調達価格が10月から一気に200ドルに。各社とも「我々の努力の範囲を超えている。顧客に1トン当たり1万円の値上げをお願いするしかない」(新日鉄住金の栄敏治副社長)という苦境に陥った。

 鉄鉱石や副原料などの価格も上昇中。足元では円安が急進しているが、原料高はそのメリットも打ち消す。この上期は円高デメリットが直撃したのに、10月以降の下期は「輸出入が均衡するため、為替影響はほとんどゼロ」(同)と、営業利益段階で円安メリットはほとんど出ない。

 原料炭のスポット価格は騰勢を強め、ついに300ドルを突破。新日鉄住金の進藤孝生社長は「300ドル台は一定の間、続くだろう。そうなると、さらに1万円程度の値上げをせざるを得ない」と頭を抱える。昨年は中国市況の底割れで終わり、今年も原料炭急騰の背景には中国の生産調整がある。
日刊工業新聞2016年12月5日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
年々、不確実性を増す鉄鋼業界だが、来年も中国の情勢がかく乱要因になることだけは間違いない。 (日刊工業新聞第ニ産業部・大橋修)

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