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「トランプ・ラリー」が終わる時

小集団それぞれの「第一主義」が最大の危機になる
 大統領選後、米国株式市場は連日高値を続伸し、次期大統領にちなんで「トランプ・ラリー」と称されている。実際には大統領選挙前日の11月7日に、連邦捜査局(FBI)がクリントン氏のメール問題についてさらなる追求をしないと明言したことを受けて、S&P500指数が2%も高騰したのだ。投票結果は想定外のトランプ氏勝利となったものの、今のところは期待感が先行し、相場上昇が続いている。トランプ・ラリーはいつまで続くのだろうか。

 トランプ氏は既存の政治家ではないのでしがらみがない。発言をコロコロ変えながら、交渉にはタフな態度で臨み、自分の利益を最大化するタイプである。「プロ・ビジネス」「反エスタブリッシュメント」を掲げながらも、自分と家族、その取り巻きの利益を最大化するネポティズム(縁故主義)を感じるのは筆者だけではない。

 このように反対する者を排除し、自己の利益を第一とする「アメリカ第一主義」政権の方向性は明確で、読みやすい。しかし敵対視される側にとってはやっかいな問題がふりかかってくる。

「2017年の悲観者ガイド」


 ブルームバーグの「2017年の悲観者ガイド」を見ると、米中経済戦争、メキシコペソや中国人民元の下落、ドイツのメルケル首相の敗北、ロシアのプーチン大統領の野望拡大など、世界が混乱と分裂に巻き込まれる悲観的シナリオが並んでいる。

 実際にそうなるかどうかは別として、米国にとっても次期政権の実態が見えてくるのは年明けになるだろう。ニューヨーク連銀のウィリアム・ダドリー総裁は財政拡大によるトランプ成長戦略について、インフラ整備によって生産性が向上するプラス面がある一方、金利上昇に伴う急な財政支出の拡大が債務支払いコストを押し上げるというマイナス面を懸念している。

 米国でもベビーブーマー(1946―64年生まれの戦後世代)が大量退職し年金生活に入る時期に、既存の巨額の財政赤字に加えてさらに負債を拡大することへの懸念は高まっている。

 トランプ・ラリーは、株価が上昇しているうちは国民は政治に無関心かあるいは不満を持たないという「経済・株価第一主義」に乗じた現象に見える。しかしながら、カリフォルニア州では連邦政府から脱退する「Calexit」の動きも始まっている。IT革命を押し進めたシリコンバレーでは、さまざまな人種や主義を認め合う多様性や自由を求め、反トランプへの姿勢を強めている。

 すべてが分断され、細かい小集団がそれぞれの「第一主義」を掲げれば協調が失われ、「経済・株価第一主義」の大前提である平和が壊れてしまう。これがトランプ・ラリーの最大の危機となるだろう。
(文=大井幸子・国際金融アナリスト兼SAIL社長) 
日刊工業新聞2016年12月9日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 FRBが13―14日の米連邦公開市場委員会で1年ぶりの利上げに踏み切るのが確実。今回の注目点は経済見通しと金融政策の見通し、特に17年の利上げの回数がどの程度になるのかにある。米利上げは政府支出の拡大や減税を中心とするトランプ米次期大統領の公約と合わせ、日本企業にとってはプラス。慎重な姿勢を崩さない企業の設備投資が活性化する環境も整う。  一方、副作用もある。米国が利上げに踏み切れば日米金利差が拡大し、ドル高円安と同時に新興国の通貨安を招く。アジアや南米などから資金流出の懸念はくすぶる。新興国の経済減速が現実のものとなれば、新興国で事業を拡大してきた日本企業の重しになる。また利上げに伴うドル高は、米国の多国籍企業や製造業に打撃を与える恐れがある。トランプ次期政権は、米製造業の復活を掲げており、ドル高はいずれトランプ政権の難題となる。FRBとの間に摩擦も生じかねない。

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