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がんで亡くなるのは医療の敗北ではない。緩和ケア最前線

尊厳に満ちた終わり方を迎える方向に
 現代の医療では、まだがんをすべて治すことはできません。完治するにこしたことはありませんが、残念ながら、がんで死亡する方は年々増えています。2015年度の人口動態統計でも、主な死因の第1位は悪性新生物によるものです。

 従来の医療は病気と闘うことで、患者さんの死は医療の敗北という考え方が強くありました。がんという病気と闘うことに最大の努力を払うことはあっても、がんを持つ人間に対し配慮が欠けている面がありました。

 しかし、最近医療の側でも考え方は変わってきています。治せない病気は厳然としてあるけれど、大事なのは患者さんの生活で、心であるということです。がんを持つ人の苦痛を和らげることで、QOL(生活の質)を改善することができるようになりました。

 こういう考え方を基に緩和ケアは日本でも少しずつ広がっています。1981年、聖隷三方原病院に初のホスピス病棟が設置されました。

 ホスピスの名称には、がんの末期の患者さんを入院させるという印象が強く、緩和ケア病棟という名称が使われるようになりました。都立病院では、98年に豊島病院に初の緩和ケア病棟が設置されました。

 緩和ケアという言葉は一般的ではないかもしれませんが、終末期医療(ターミナルケア)と同じではありません。

 WHO(世界保健機関)は、緩和ケアを、「生命を脅かす病気による問題に直面する患者さんの痛みを取り去るだけではなく、その家族に対しても、心理的、社会的な問題、さらに宗教を含む心の問題にも対応すること」と定義しています。病気だけでなく、病気を持つ人間に焦点を当て、患者さんおよび家族の持つ苦しみを和らげることが目的です。

 しかも、できるだけ早く対処することが望まれています。緩和医療は、がんの診断時に始まり、根治治療、保存的治療、症状緩和治療へと治療目的が変化するごとに、段階に応じて緩和ケアの役割を意識的に大きくしてゆくことが望ましいとされています。

 豊島病院の緩和ケアでは疼痛(とうつう)緩和を主眼とし、在宅の先生と連絡を取りながら、自宅に帰られる人は自宅に帰っていただくようになっています。また、疼痛から解放されて、余命も確実に伸びています。

 まだ、緩和ケアは発展途上で、がん診断時からスタートするというような理想的な状況ではありません。人間がその最期をその人らしい尊厳に満ちた終わり方を迎えるようにできる方向に進んでいます。
(文=山口武兼・公益財団法人東京都保健医療公社豊島病院院長) 
日刊工業新聞2016年12月9日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
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