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茂み?ではなく農園!植物そのものの力とICTで「協生農法」

ソニーコンピュータサイエンス研、複数野菜密集し生態系保全
茂み?ではなく農園!植物そのものの力とICTで「協生農法」

育てている野菜の情報を実際の画像に重ねたVRの映像

**野菜が狭い土地に密集
 植物が好き勝手に生えた茂みのように見えるが、人が管理する農園だ。目をこらすと白菜、ナス、小松菜、大根、キャベツの葉や実があると分かる。いくつもの種類の野菜が狭い土地に密集して育っている。ソニーコンピュータサイエンス研究所(東京都品川区)の舩橋真俊リサーチャーが提唱する「協生農法」の農園だ。

 「農業と生物多様性はトレードオフの関係。農作物の生産性を上げると、生物多様性は破壊される」と舩橋リサーチャーは指摘する。農園は大規模になるほど麦やトウモロコシといった同一の農作物が集中栽培される。単一の種に占拠された土地に生物多様性はない。雑草や虫も排除されるので、ますます単一化する。しかも農薬や肥料が投入されると、土壌や地下水は汚染が進む。

農地1反に250種の農作物を栽培


 協生農法は単一の植物を育てる農法とは逆だ。舩橋リサーチャーの『実践マニュアル』によると、無耕起や無施肥、無農薬、種と苗以外は持ち込まないといった条件で、「生態学的最適化状態(生態最適)の有用植物を生産する露地作物栽培法」とある。

 生態最適とは、複数種が競合共生しながらそれぞれ最大限の成長を達成すること。農園に生物多様性を整えると生態系の機能が発揮され、野菜の成長が促される。地表を野菜で覆うので雑草の発生も抑えられ、除草剤を使わずに済む。

 三重県では農地1反に250種の農作物を栽培する協生農法が実践されている。売上高は倍増し、肥料や草むしりの費用が減って利益は5倍に向上したという。中央アフリカの砂漠でも野菜を収穫できた。

 協生農法に取り組むには、成長速度や収穫時期を考え、戦略的に野菜を選ぶ必要がある。250種もあると情報量が多いので、管理に情報通信技術(ICT)が役立つ。「この野菜の成長を助ける野菜はどれか」といった知見をデータベース化する。仮想現実(VR)も活用できる。多くの野菜を栽培して種類が見分けられなくなった農園にタブレット端末を向けると、その場所に育つ野菜を知らせる表示を実際の画像に重ねることができる。

食糧問題を解決


 協生農法は農業と生物多様性を両立させる。人口が増加している新興国の食糧問題を解決し、自然破壊も防げる。新しい農法が地球環境や人類に大きく貢献する可能性がある。

 舩橋リサーチャーはアジアの新興国での広がりを期待し、「ICTが普及を加速させるツールとなる」と話す。

日刊工業新聞2016年12月6日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
ソニー系研究員が、新しい作物栽培法の普及活動をしていました。その意外性もですが、協生農法の潜在力に惹かれました。ICTと農業と言うと、データに基づいて温湿度を管理する植物工場が思い浮かびます。舩橋さん提唱のICTと農業のかかわり方にも注目です。

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