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リチウムイオン電池の発火を科学的に考える

原因は三つ、衝撃や温度上昇を避けるなどの対策が必要
11月に国内便を利用した際、「サムスン製のスマホ『ギャラクシーノート7』所持者は届け出るように」との機内アナウンスがあった。これは、去る10月13日に、サウスウェスト機内で同型スマホの発煙事故があったことによるものだ。この発煙は内蔵のリチウムイオン電池の不具合により発生した。

 リチウムイオン電池は高性能であるため、パソコン、電気自動車、航空機などに使われているが、発火事故も多い。ボーイング787機での事故も記憶に新しいところだ。

 ノートパソコンを利用していて、長時間、電源オンにした場合、果たして火災の危険の有無はどうなのか不安だ。11月14日発行のアメリカ化学会発行の情報誌「ケミカル・エンジニアリング・ニュース」(CEN誌)はリチウムイオン電池(電池と略記)の発火原因を解説している。

 電池のプラス極はコバルト酸化リチウムで、マイナス極は黒鉛であり、それぞれの極は隔離膜で分離されている。電極間には有機物にリチウム塩を溶解した電解質を充填してあり、リチウムイオンが移動する。充電の際はリチウムイオンがプラス極からマイナス極へ、放電の際は逆方向に移動する。

 発火原因は三つ。第1は隔離膜の損傷による発火だ。充電の繰り返しや、隔離膜への機械的ダメージにより隔離膜が破れて電極がショートし、発火する。

 第2は過充電により、コバルト酸化リチウムが分解して酸素を発生するので、存在する有機物に触れて燃焼する。さらに分解した酸化コバルトが電解質の抵抗を増やすので、温度上昇をまねく。

 第3は、電解質の溶解に使われる有機物が充電の際に分解して二酸化炭素を発生する。密閉容器内に二酸化炭素が充満して圧力が高まると電池を破損し、可燃性の有機物が拡散し発火する。

 これらの原因から、衝撃や温度上昇を避けるなどの対策が必要だ。よって、発火を防ぐ対策も立てられる。

 ところで、発火の防止策も研究されている。CEN誌、2016年1月18日号によると、温度上昇を感知して、電流を遮断する物質を電池内に付加する技術がスタンフォード大学の研究チームにより見いだされた。

 爆発事故が発生して、すでに、10年も経過してしまった。安全なリチウムイオン電池の普及が、今後、ますます望まれる。発火防止策を講じた製品の一日も早い出現を願ってやまない。
(文=大江修造<日本開発工学会会長・東京理科大学元教授>)
日刊工業新聞2016年11月28日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
電池メーカーやセットメーカーも「リチウムイオンはもともと発火するもの」という性悪説にたってさまざまな対策を積み重ねてきている。利用する側が注意すべきという意見もあるが、コンシューマー商品に搭載される以上、その性善説は成り立たないだろう。リチウムイオンの発火を防ぐ技術開発を継続していくことと同時に、発火しない、しにくい新型電池の開発も待たれる。

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