「2030年のIoT」 勝ち組、期待外れ、レバレッジ効果が大きい産業

機械と人間が共生するモデルを日本から

 野村総合研究所コンサルティング事業本部部長の桑津浩太郎(くわつ・こうたろう)氏に聞く。 

 ―IoT(モノのインターネット)ブームは本物でしょうか。
 「パソコンや携帯電話は人間が使うことが前提であり、人間のためのIT化だ。これに対してIoTは人ではなく、機械などのモノが対象となる。これまで“第3の波”のような話は何度も言われてきたが、今回はそれとは異なる。モノの自動化や無人化がネットワークとともに本格的に議論されるのは初めてだ」

 ―「センサーをつなげばバラ色の未来ではない」と言及しています。その理由は。
 「IoTの進展により、多様で奥行きのあるビジネスが期待できる。しかし普及には時間がかかる。携帯電話のように月次料金で稼ぐモデルをそのまま機械に当てはめることはできず、センサーをつないだだけではもうからない」

 ―日本として、どうすればよいのですか。
 「IoTから価値を見いだすには良質なデータとフィールドでの実証実験が必須だ。多様な取り組みにはベンチャー的な要素も必要だが、信頼性を得るためには時間がかかる。そうすれば、体力に勝る大手企業が有利だ。日本には世界的に競争力のある機械メーカーがたくさんあり、IoT時代に向けて日本が優位に立つチャンスはある」

 ―産業別の動向や課題も列挙しています。特筆すべきことは。
 「ざっくり言えば、機械などの製造業はIoTとの相性がよく、勝ち組みだ。期待外れとなりそうなのはエネルギー業界。逆にこれから期待できるのはIT活用によるレバレッジ効果が大きい第1次産業だろう。農業などは注目産業と言ってよい」

 ―IoT化によって日本の社会は豊かになるのでしょうか。
 「豊かになる。このまま人口が減少していくと、社会自体が縮小する。そこをカバーするのがIoTだ。ロボットと人工知能(AI)も同様で、合わせて“新三種の神器”と言えよう。それらの活用で何らかの問題が生じることがあれば、対策を考えればよい。問題ばかりをあげつらっていては縮小均衡しかない」

 ―表題は「2030年のIoT」ですが、その前に2020年という節目もあります。
 「30年とはざっと10―15年先の展望を意味する。20年は、例えば高速道路のどこかで自動運転が開放されていれば、全ての人がIoTを目の前で見て触れることができる。そこを出発点として、IoTやAIなどが普及し、確固たるものとして形成されるのが30年ということだ」

 ―日本はIoT先進国になれますか。
 「少子・高齢化社会の到来をはじめ、日本は課題先進国だ。一方で、強い製造業を持っている。しかも街中に自動販売機があっても壊されることはなく、鉄腕アトムやドラえもんが好まれる国でもある。ロボット、AI、IoTを3点セットとして、機械と人間が共生するモデルを日本から生み出すべきだ」

 「生産労働人口が減る日本経済にレバレッジをかけるには、今いる人間の生産性を上げるモデルが必要となる。IoTは1丁目1番地だ」

(聞き手=斎藤実)

【略歴】
桑津浩太郎86年(昭61)京大工卒、同年野村総合研究所入社。電波、光ファイバー、データセンターなどの通信インフラを中心にコンサルタントとして、事業戦略や企業評価などを担当、04年から現職。兵庫県出身、52歳。


※『2030年のIoT』(東洋経済新報社刊)

日刊工業新聞2016年11月21日

日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
11月26日
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センサーをつなげばバラ色の未来というわけでない」。昨今のIoTブームに対する桑津氏の警鐘は決して否定的な意味合いではない。むしろIoTを大きなビジネスチャンスとしてとらえており、ブームに踊らされず、覚悟をもって取り組みべきだ、というニュアンスだ。産業界をみわたすと、ここ1、2年で、IoTの実証実験が至る所で行われている。その一方で「ログ(履歴)データを集めたが、次にどうしたらいいか分からない」といった声も少なくない。だからといって、いろいろと試さなけば、その先は見えず、試行錯誤は避けて通れない。それぞれの企業でIoTがビジネスとして根付くまでには時間がかかる。成功への道のりはバラ色ではなく、茨(いばら)の道といえよう。
(日刊工業新聞第一産業部・斎藤実)

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