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「おめでとう」と言える産科なのに…。直面する数々の難題

周産期医療や児童虐待などに向き合う
 産科は「おめでとう」と言える嬉しい診療科であると同時に「昼夜のない労働を伴う」過酷な領域です。院長は産科医師不足への対応と当直医師の確保が一番重要な仕事で、本来の仕事を後回しにせざるを得ません。日常留意している二つのことをお伝えします。一つは周産期医療で、もう一つは児童虐待や性犯罪など厳しい社会現象対策への参画です。

 ある日、それまで元気に妊婦検診に通っていらした患者さんが、突然、血の気が失(う)せた蒼白(そうはく)な顔で子宮がまるで板のように張って救急来院されました。

 触診のみで直ちに手術室に直行を指示、超緊急帝王切開、15分で赤ちゃんを無事娩出できました。胎盤早期剥離です。赤ちゃんは一時介護が必要となりました。

 このような時、誰が良いとか悪いではなく、まず赤ちゃんが迅速で公平な補償を受けられるように、と始められたのが「産科医療補償制度(NFC)」です。私たち医療提供者はその審判にたえられるよう診療内容向上と事故防止への意思を高く保つよう要請されています。

皆で親子を見守る「お節介」が子供を救う


 またある時、妊娠3カ月に入ってすぐの妊婦さんがバースプランを受けたいといらっしゃいました。「妊娠の喜び、嬉しさが全然湧いてこないのです。バースプランを聞けばそういう感情が湧いてくるかも、と思いました」とのこと。

 産科の病院は助産師や看護師がいろいろな悩みの相談役となっています。東京都でも「妊娠相談ほっとライン」で同様な相談に応じています。行政支援を活用し母親の負担軽減に役立てるべきでしょう。

 産科医として触れるのはつらいですが、「児童虐待死が最も多いのは0歳」です。望まない妊娠、収入への不安など、妊婦さん(特定妊婦)の悩みを聞き、各方面と連携し児童虐待の予防(オレンジリボン)につなげるよう努めています。私達産科医は、皆で親子を見守る「お節介」が子供を救う「東京OSEKKAI化計画」に参画しています。

 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援に協力しています。オリンピックの時、開催地では性犯罪が増加する傾向にあると言われています。犯罪発生時、加害者をひっかいて爪の間に残った犯罪者の細胞、そのほか毛髪、体液などのDNA鑑定により犯人が特定されるように、産婦人科として協力していくことになります。

 「おめでとう」と言える産科が、数々の難題と向き合っていることを少しでもご理解頂けたら、一文をしたためた甲斐があります。
(文=飯野病院 理事長・院長 飯野孝一)
日刊工業新聞2016年11月25日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
虐待、犯罪までケアしているとは知りませんでした。病院だけにとどまらず、さまざまな機関との連携が必要になってきます。

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