発見から25年、カーボンナノチューブは稼ぐ戦略へ

量産法を確立、応用製品が続々生まれる

 カーボンナノチューブ(CNT)の発見から7日で25周年を迎えた。CNTは日本で発見され、国が実用化に向け、継続的に技術開発を支えてきた。この四半世紀でCNTの物性が明らかになり、量産法が確立し、CNTの応用製品が開発された。だがまだ道半ば。これから産業化のステージに入る。炭素繊維のように日本を代表する材料に育つか注目される。

 理想的なCNTは鉄鋼の20倍の強度で、重さはアルミの半分。銅の1000倍の電流を流せ、熱は銅の5倍以上伝わりやすい。名城大学の飯島澄男終身教授(当時NEC主席研究員)が発見し、1991年の11月7日号の英科学雑誌「ネイチャー」に掲載された。

 飯島教授は「まず半導体回路や薄型ディスプレーなどへの応用研究が盛り上がった」と振り返る。日本の半導体産業が強かった時代と重なる。医療応用も模索されたが、アスベスト問題で研究は停滞。現在は樹脂とCNTの複合材や電子部品材料が有望市場だ。時代の流れに応じてスポンサーを乗り換えながら研究をつないできた。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は98年から18年間、開発を支援してきた。物性解明から製造技術、用途開発と研究者を支え、15年に日本ゼオンの単層CNT工場が稼働したことで、CNT自体の開発は一段落した。NEDOの古川一夫理事長は「CNTは技術開発戦略から産業戦略にシフトする」と説明する。

 産業技術総合研究所などは耐熱性450度Cの単層CNT含有スーパーエンジニアリングプラスチックを開発。軽さを生かしてアルミからの置き換えを狙う。宇宙関連製品などに提案していく。ミズノはゴルフシャフトのCFRPにCNTを加えることで耐衝撃性を13%向上させた。

宇宙から身近な文具まで



(日本ゼオンとNEDOが開発した単層CNT含有の高性能熱輸送シート)

 日本ゼオンは樹脂中にCNTを配向させた熱輸送シート(TIM)を開発。CNTに沿って大量の熱が伝わる。サーバーなどのCPU冷却向けに発売する。日本ゼオンの荒川公平特別経営技監は「高性能TIMは380億円市場になる。この過半をとりたい」という。三菱鉛筆はスマートフォンの保護フィルムにCNTを採用。フィルム中のCNTが電界変化の面積を広げるため、タッチを検出しやすくなった。入力用のペン先を細くでき、操作性が向上した。

 宇宙から身近な文具までCNTが浸透しようとしている。だがどの市場が大きく育つかまだわからない。機能性材料はニッチ製品の集まりで、構造材料は生産規模が物を言う。古川理事長は「機能性材料は機能の追加や強化の柔軟性、構造材料はコストを追求しなくてはいけない。信頼性評価や認証とも組み合わせたい」という。

 これまで全方位で用途開発を展開し、芽は出てきた。この応用製品を各市場で勝てる商品に高め、日本が稼ぐ戦略が必要だ。「CNTは半導体のように生産設備を輸出されない。素材のアドバンテージがあるうちに勝てる商品を出していきたい」と力を込める。
(文=小寺貴之)

日刊工業新聞2016年11月17日

日刊工業新聞 記者

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11月18日
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宇宙エレベーターのケーブルなど、CNTは電線や構造材への期待が膨らみます。ただ使用量が大きいため要求コストはとても厳しく、一足飛びには到達できません。その中間地点となるコストと性能の市場を探して、NEDOは電子部品などのハーネスをターゲットに選びました。それでも簡単ではありませんが、CNTの大電流耐性を生かせば、次世代線材としての道が開け、製品の軽量化にも貢献します。今後は、線材など市場に特化する技術開発と、抜本的にコストを下げる製造プロセスなどの基盤技術にシフトするそうです。これは単層CNTの成功が背中を押しました。ただ日本ゼオンは単層CNTを開発しつつ、「応用製品を他社に委ねていても、いつものになるかわからない」(荒川技監)と自社で製品開発も進めています。ハーネス関連でも同じようにコミットしてくれる企業が見つかるかどうかが最大の課題だと思います。(日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之)

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