大谷選手へつなぐ「黒田の8球」

言葉ではないアスリートたちのコミュニケーション

 阪神ファンのボクにとっては内心じくじたるものがあるのだが、野球ファンとしては広島と日本ハムの対決は興味のあるものだった。メジャーリーグ帰りの黒田博樹投手と、投手と打者の二刀流と騒がれ実績も残している日ハムの大谷翔平選手の新旧対決は楽しみな戦いであった。

 広島カープは世間でいうところの販売促進に成功し「カープ女子」なるファン層を拡大。マツダスタジアム(広島市南区)には今まで見られなかった今どきのAKB軍団と見まごう女子群が席を陣取り、黄色い声援がこだました。

 片や日ハムは負けず劣らずの北海道地元ファンの結束は固く、“二刀流”大谷選手、個性的な田中選手をはじめとしてそれぞれの選手にまんべんなくファンがいたようだ。結果、日本ハムが10年ぶりの日本シリーズを制して終わった。

 日ハムはマツダスタジアムで2連敗をし、地元北海道は札幌に帰り、ハンディキャップを見事はね返して4連勝しての勝利で日本一を飾ることとなった。たくさんのエピソードの中、ボクの琴線に触れたのが「黒田の8球」というやつだ。大谷翔平選手が投手としてバッターボックスに入った時に黒田博樹投手が投げたピッチング内容のことを言っている。

 その8球が直球、カーブ、ツーシーム…黒田投手の投球の全種類を後輩にあたる打者・大谷に披露したということだ。2人にしか分からない会話がなされているのだ。大谷選手は後に「全投球を打席で見ることができた。間合いだったり、ボールの軌道だったり、勉強になりました」と語っている。

 伊集院静さんとビートたけしさんがテレビの対談中に突然キャッチボールをはじめてボクは驚いたことがある。これも後で聞いたのだが、キャッチボールを何回か繰り返しているうちに双方ともに何か分かってくるものがあると聞いた。言葉と同様に球の速さとか、捕球の位置とかでコミュニケーションができるという話を思い出した。

 野球に限らず、相撲でも、柔道でも、アスリートたちは言葉でないコミュニケーションのあり方を心得ているのだなぁ、と感激した。先輩から後輩へつないでいく手段はアスリートに限らず、親から子でも、会社でも職人でも、アーティストでもそれぞれのやり方があり、それが伝統とか、老舗とか…文化として残っていくのだろう。
(文=長友啓典)

【略歴】
長友啓典(ながとも・けいすけ)39年(昭14)大阪生まれ。アササン(朝の散歩)を日課にするアートディレクター。デザイン会社K2代表、季刊「クリネタ」編集長

日刊工業新聞2016年11月4日

明 豊

明 豊
11月06日
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中学時代に野球部だった自分にとって、キャッチボールでのコミュニケーションもよくわかるし、スポーツは相手があってこそ成立する。そこに尊敬と敬意があると清々しい。
リオ五輪で金メダルをとったマルーリス選手は、吉田沙保里選手がいたからこそ成長できたと言っている。吉田選手も「これまで金ばかりだったのでその人たちのことをあまり考えたことがなかった。戦える人がいるから順位もつくし競いあえる。負けた人の気持ちが本当によく分かった大会、良いオリンピックでした」と答えもすばらしい。

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