【連載】挑戦する地方ベンチャー No.11 上州農産

世界中のどこにいても、どんな時でも、本当においしい納豆を届けたい

 大豆の名産地である群馬県前橋市粕川町。地元の大豆を使った地産納豆を作るために設立されたのが上州農産だ。「なっからうんめぇ!」と大きく書かれたインパクトのあるパッケージが印象的で、「赤城の恵ブランド」の認証を受けている。


(大粒、小粒などさまざまな種類をそろえる)

フィリピンでの経験を活かす納豆づくり


 松村省兒社長は趣味で納豆作りに長年取り組んでいて、食器乾燥機を改造して納豆専用の乾燥室にするなど素人を超えた力の入れようだったという。2012年に会社を立ち上げ、2014年には息子の松村徳崇氏が入社した。現在は専務として、営業を主に担当するほか製造やデザインなどにも携わっている。

 徳崇氏は広告代理店で勤務したのちに社会人インターン制度を利用しフィリピンへ。日本の建築メーカーの支社で総務や経理などのマネジメントを任されていた。「海外で培ったノウハウと納豆を掛け合わせれば面白いものができるのでは」と商機を感じ上州農産に入社した。


        (松村徳崇氏)

 「フィリピンで働いていて実感したことなのですが、納豆は手に入りにくいうえに高価でおいしくないものが多い。海外でも手軽に納豆が食べられる商品を作れないかと考えました」。フリーズドライ納豆や、水でもどす納豆などすでに販売されている商品もある。だが納豆らしい粘り、風味、食感を出すのは難しい。製造も手間がかかるため挑戦するメーカーが少ないのが現状だ。フィリピンでその必要性と潜在ニーズを実感した徳崇氏は、水でもどせる本格的な納豆の開発に着手した。

 専用の乾燥機を開発し試行錯誤を重ね、水でもどしても糸引き納豆としての再現性が高い納豆を完成させた。2016年6月からは補助金を活用し、前橋工科大学と共同研究を開始。保存中の納豆菌の増え方について研究しており、結果次第では今よりもさらなる長期保存が可能になる。

『納豆で人命を救いたい』


 納豆は栄養価が高いため、東日本大震災時には非常食として重宝された。長期保存ができるようになれば災害用備蓄食糧としての活用も考えられる。「2011年に震災が起きたとき、私はフィリピンにいて、状況もわからず、何も支援することができなかったという悔しさがありました。水でもどす納豆には『納豆で人命を救いたい』という思いも込められています」。

 現在、インバウンド向けの小売店や海外在留日本人向けのショッピングサイトなどで販売しているがおおむね好評。外国人の間で健康志向が高まっていることで納豆の認知度も向上しているという。もちろん海外で働く日本人からも高評価だ。月間500袋を販売しているが、引き合いが多く生産が追い付かない状況にある。

 製造に携わるのは1~2名。工場を拡大したものの、今のままでは5年後の売り上げ目標には及ばない。時間のかかっている袋詰め工程の自動化を考えている。


(水でもどす納豆。水に3時間ほど漬けることで粘りがでる糸引き納豆になる)

 さらなる拡販についても積極的だ。海外の食品ショーへの出展や、他のフリーズドライ製品とコラボし、例えば水を注ぐだけで「納豆丼」ができるような災害対応製品の開発、などアイデアは尽きない。

 また地元への貢献も理念の1つに掲げる。子供たちに食育を行うなど地域に愛される会社に成長してきている。「今後は地元の人が働いてみたいと思える会社にしていきたい」(徳崇氏)。

地元起業家との交流が刺激


 前橋市では現在、じわじわと起業家が増え始めている。徳崇氏も若手経営者の集まりに参加。小規模な飲み会がいつしか10~15人が定期的に集まり交流する場になっていた。「業界を変えたい、イノベーションを起こしたいという人が集まっているのでとにかく熱い人が多く、刺激をもらえます。出席するたびやる気が出ます」(徳崇氏)。

 ここで知り合った経営者に紹介され、トーマツベンチャーサポートが主催する「第4回群馬ベンチャーサミット」にエントリーしたところ、見事グランプリを受賞。これを機に資金に関して提案を受ける金融機関も増えたという。

 「フィリピンにいた時も、起業家を見て面白そうだなとは思っていましたが、自分でやってみると思った以上にエキサイティングだとわかりました」と話す徳崇氏。

 老舗が多い納豆業界の中で、同社は設立から4年の「歴史の浅い納豆屋」。だからこそ今まで誰もやらなかったことに挑戦し、変わった取組みをする。「納豆で世界を救う」ための活動は始まったばかりだ。

ニュースイッチオリジナル

前田 亮斗

前田 亮斗
11月07日
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上州農産は世界で初めて納豆のインスタント技術を確立し、独自の温度調節法により、水でもどしても粘りがでる納豆を生産している。ある種古く、日本だと誰もが知っていて当たり前となっているものに新しさを生み出し、海外市場を切り開こうとしている点が面白い。粕川町独自の地域資源である大豆を活用し、日本ならではの納豆という製品を作り、それらを海外に売るという一連のプロセスは地方創生の文脈においても参考となるのではないだろうか。

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