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注目の「核酸医薬」 新たな創薬手法として定着するか

M&Aや原料ビジネス拡大。有効性や安全性の確立が課題に
注目の「核酸医薬」 新たな創薬手法として定着するか

核酸合成機を操作する協和発酵キリンの研究員

 核酸医薬品への期待が高まっている。低分子医薬品や抗体医薬品では狙いにくい治療標的にも対応できると考えられていることが背景の一つだ。製薬企業が研究開発を強化しており、関連産業でもM&A(合併・買収)や原料ビジネスの拡大などの動きが出てきた。核酸医薬が新しいモダリティ(創薬手法)として定着するか注目される。

 協和発酵キリンは、がん治療に核酸医薬品を活用する考えを掲げる。核酸医薬品はDNAやリボ核酸(RNA)の構成成分である塩基を組み合わせて合成した医薬品。2本鎖RNA(siRNA)を標的のがん細胞へ送達する仕組みの臨床試験を、2018年までに始めることを目指している。

 siRNAは、生体内のたんぱく質を生成するメッセンジャーRNA(mRNA)を切断できる。がん細胞の生存や成長に関係するmRNAを切断すれば、がん細胞は必要なたんぱく質を得られなくなり、結果として抗腫瘍効果が示される。従来の低分子医薬品や抗体医薬品では、mRNAを狙うのは難しいと考えられてきた。

 では、核酸医薬の実用化に向けてはどのような課題を解決していく必要があるのか。同社創薬技術研究所の冨塚一磨所長は、「核酸そのものの活性を上げていくことが重要だ」と指摘する。

 siRNAは細胞内に届いたとしても、核酸が単体で効果を発揮するわけではない。細胞内のたんぱく質の力を借りて遺伝子の切断を行う。だが同研究所の篠原史一主任研究員によると、細胞に届いた核酸のうち、たんぱく質との複合体が形成されて効力を示すものはわずかだという。

患者の服薬負担や副作用の懸念も少なく


 篠原主任研究員はこうした問題意識のもと、「核酸の構造を最適化し、たんぱく質によりフィットするようにした」。その結果、結合力が従来比5―10倍になり、それに呼応して活性も5倍程度となったとしている。

 活性が5倍になると、同じ量の核酸を細胞内に届けたときに遺伝子を切断する量が5倍になる。逆に言えば、同じ量の遺伝子を切断するとしたら核酸の投与量は5分の1で済む。薬の製造コストの低減につながることはもちろん、患者の服薬負担や副作用の懸念も少なくなることも期待できそうだ。

 関連産業の動きも活発化してきた。日東電工は米国の核酸医薬受託製造子会社である日東電工アビシア(マサチューセッツ州)を通じ、10日付で2社を買収した。

 医薬品分析のアーバイン・ファーマシューティカル・サービシズ(カリフォルニア州)と医薬品無菌充填のアブリオ・バイオファーマシューティカルズ(同)を、新会社「日東アビシアファーマサービス」(同)に統合した。買収額は非公表だが50億円前後とみられている。

 ロシュ・ダイアグノスティックス(東京都港区)は、核酸医薬品用のmRNAを人工的に合成するための原料の販売事業で品ぞろえを広げる。従来は4種類の原料を扱ってきたが、17年末までに塩基をつなぎ合わせる酵素の一種であるポリメラーゼなどを新たに4種追加する。17年12月期の同事業売上高を、16年12月期見込み比2・5倍の5000万円に引き上げる計画だ。

 こうしたビジネスは製薬企業の研究開発の進展に応じてさらに拡大する可能性がある。その意味でも核酸医薬の有効性や安全性の確立が待たれる。
(文=斎藤弘和)
日刊工業新聞2016年10月27日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
他のバイオ医薬品よりも開発期間を短くできるため、全世界で約140種類が臨床試験の段階にあると言われている。ただ商用化されているものはまだ少ない。2020年には5000億円市場になるという予想もあり、今のままではまた欧米勢に遅れをとってしまう。

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