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「ドイツの自動車業界は個別生産に近づいている」(アーヘン工科大教授)

ものづくり大国、日本とドイツで加速する産業用ロボットとAIの融合
「ドイツの自動車業界は個別生産に近づいている」(アーヘン工科大教授)

オムロンのAI搭載無人搬送車「モバイルロボットLD」

 産業用ロボットと人工知能(AI)の融合が加速している。以前からロボット業界ではAIの活用が検討されていたが、ここにきて取り組みが具体化してきた。特に人間しかできなかった作業のロボット化において、自律的に行動を決定できるAIへの期待値は大きい。また、日本と同じく製造業大国のドイツでも、産業用ロボットとAIの研究は活発だ。今後急速に実用化が進む可能性がある。

 「ロボットが自ら地図を作成し、最適な移動経路を設定できる」―。オムロンの池野栄司ロボット推進プロジェクト副本部長は、2017年1月に発売するAI搭載無人搬送車(AGV)「モバイルロボットLD」の特徴をこう説明する。

 内蔵するレーザースキャナーの測定結果と地図情報を基に、自らの現在位置を認識しながら移動する仕組み。地図は立ち上げ時に利用範囲内を走行させれば、自動的に作成される。掃除ロボットなどで活用されているAI技術「SLAM(スラム)」を用い、環境地図作成と自己位置推定を可能にした。

 オムロンに限らず、ロボット各社は急速にAIとの距離を縮めている。モバイルロボットLDのようにAI機能により自律的に行動を決定できるため、設定作業の手間を削減できることがメリットだ。ファナックもこのメリットに着目し、多関節ロボットによる整列・仕分けシステムとAIを融合させている。

 出資するプリファード・ネットワークス(PFN、東京都千代田区)の技術を活用し、バラ積みされた物体の最適な取り出し方をAIが学習する仕組みを開発。展示会などで披露するデモでは、学習効果によりロボットは約9割という高い確率で取り出し作業を成功させる。

 通常、ここまでの成功率を得るには熟練者による調整が必要だが、このシステムではそうした調整作業が不要だ。また同様のシステムを熟練者が調整する際は2日程度必要だが、AIによる学習はロボット1台だと8時間前後で済むという。

 このほか、安川電機がAIで溶接条件の調整を自動化できる仕組みを開発するなど、AIの活用例はここ1年ほどで急増した。今後数年で本格的な普及段階に入るかもしれない。モノづくりの現場でどのような導入効果を生み出すかが、見どころとなる。

インタビュー・サビーナ・イェシュケ氏




 ドイツでもロボットとAIの連携が注目されている。アーヘン工科大学(ノルトラインヴェストファーレン州)でロボット、AI、自動運転などを研究するサビーナ・イェシュケ教授に、取り組みの意義を聞いた。

 ―AIはモノづくりにどのような影響をもたらしますか。
 「AIで新しいタイプの工場自動化(FA)が実現する。従来、FAは大量生産のためのものだったが、AIを利用すれば個別受注生産も自動化できるようになる。今、まさに求められていることだと思う」

 ―なぜニーズが高まっているのですか。
 「個別受注生産は職人の領域だったが、担い手が不足している。ドイツと日本の共通課題だと思う。大量生産の象徴とされる自動車業界も、個別生産に近づいている。ドイツの自動車工場を見ると、毎日数千台を生産しているのに、全く同じ仕様の車は1週間に数台程度しかない」

 ―AIによって産業用ロボットはどう進化するのでしょう。
 「例えば複数のロボットが共同作業する場合、1台に問題が起きたら他のロボットがそれを認識し、補完できるようになる。また、人とロボットが協調する仕組みも、実現しやすくなるはずだ」

 ―課題は。
 「技術者、そして経営者の意識改革が必要だ。ドイツや日本はモノづくりの歴史が長く、人間が生産活動を厳密に管理するやり方が確立されている。そこにAIが入り込むのは、簡単ではない。一方、例えば韓国や米国は日独ほどの歴史がない。しがらみを乗り越えないと、我々は取り残される恐れがある」
(聞き手=藤崎竜介)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
各社のアプローチは微妙に異なるが、プログラミングなど人間がノウハウを駆使する作業の自動化という目的は共通する。イェシュケ教授が指摘するように、特に日独では熟練作業者の減少が大きな課題だ。ニーズが豊富なだけに、各社の提案がそれにフィットすれば、一挙に普及する可能性もある。 (日刊工業新聞第一産業部・藤崎竜介)

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