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「前回の出展は大失敗」牧野フライスがJIMTOFで見せる雪辱戦

牧野フライス製作所・井上真一社長に聞く
「前回の出展は大失敗」牧野フライスがJIMTOFで見せる雪辱戦

井上社長

 ―前回(2014年)の「日本国際工作機械見本市(JIMTOF)」の出展では、満足いく成果が得られなかったそうですね。
 「私が開発副本部長だったが大失敗した。マシニングセンター(MC)『V33』の特別版を出したが、売れたのは1台だけ。金型の加工時間を激減させる提案をしたが、十分にユーザーの課題に耳を傾けていなかった。いくら加工時間を短くしても、前後工程を同時に早めなければ流れがダブつき、意味がない。今回の出展はこの大失敗が原点になっている」

 ―猛省を受けての出展内容は。
 「金型の加工時間だけでなく、前後工程を含めたリードタイム全体の短縮を提案する。同時5軸加工で(削り過ぎた状態の)食い込みを少なくする加工機を出す。食い込みを抑えれば、手磨きの時間を減らせる。同時5軸はプログラマーの仕事量が一気に減るほか、1回の段取りで5軸を加工できる。工具軸を倒し、工具寿命を延ばす利点もある。さらに加工機内で行う機上計測も採用し、ワーク(加工対象物)を載せ換える必要がなくなる」

 ―競合他社はIoT(モノのインターネット)戦略の強化が鮮明です。
 「当社はプロダクトリーダーでなければ、徹底した効率の運営もできない。あるのは顧客密着の力だ。これらを同時にかなえるのがIoTだろう。そうした競合が新興国や他業種から急激に育ってくる可能性は高く、備えが必要だ。当社のIoTの第1ステップをJIMTOFでお見せする。金型加工の当社の顧客と当社をネットワークでつなぐ『プロネットコネックス』を開発した。牧野のIoTは顧客支援のため。ユーザーが世界の競争で勝つためのサービスを提供する」

 ―17年の市況をどう読みますか。
 「今は当社にとってはダウントレンド。この傾向は17年も続くだろう。ただ、欧米で航空機の大型プロジェクトはあるので、他での減少分を補っている状況だ」

【記者の目・“雪辱戦”本当の進化みせる時】
 「大失敗」の発言で、14年のJIMTOFでの牧野二郎前社長の言葉が腑(ふ)に落ちた。自社ブースのにぎわいに「機械が進化していないのを確認しに来ているだけでしょう」とこぼしたのだ。真意をはかりかねた。自らを厳しく戒めるいつもの“牧野節”だと受け取めたのだが、今となれば当該MCの苦戦を会場で感じていたのかもしれない。これは雪辱戦。本当の進化をみせる時だ。(六笠友和)

日刊工業新聞2016年10月25日



※日刊工業新聞では「第28回日本国際工作機械見本市」開催に向け各メーカートップのインタビューを連載中

工作機械の重鎮、完全引退



 牧野フライス製作所の牧野二郎社長(76)が6月22日付で退任する。健康上の理由ではなく、以前から75歳での引退を決めていた。後継者に選んだのは最年少取締役の井上真一営業本部長(49)だ。約30歳の思い切った若返りになるが、牧野社長に若返りの意図はなく能力本位で選んだという。退任後は会長や相談役などの役職に一切就かない意向で、残る経営陣からは完全引退の翻意を促されている。

 牧野社長は1985年に工作機械大手の同社社長に就任し、メーカートップの立場で、日本の高度成長期から現在までの製造業を見つめてきた業界の最重要人物の一人だ。牧野フライス製作所は父・常造氏の創業であり、在任期間の長さが加わり、同社の精神的な支柱だと言えるだろう。それだけに、何らかの役職で社内にとどまるよう求められているのは自然な流れだ。

 ただ、今のところ牧野社長の完全引退の意思は固い。自身の社長就任時は常造氏が取締役相談役、2代目社長で血縁の清水正利氏が会長となり、経営の裁量を巡って悩んだことがあった。井上次期社長に同じ思いをさせたくないとの考えのようだ。

 1月29日の人事発表段階では、新しい経営陣は弟の牧野駿専務(74)を含む現在の取締役で構成される。牧野社長の子息は海外で異業種の大手企業に勤務しており、世襲人事にならなかった。

「保守的」な会社のイメージを払拭?


 次期社長の井上取締役は航空機部品の加工機として競争力が高い「MAGシリーズ」の開発に携わった。46歳で開発副本部長に就任するなど早くから頭角を現し、翌年には取締役に昇格した。直近の1年は営業本部長を務めるなど目を掛けられていた。技術分野に近視眼にならず、バランス感覚にたける、営業もできると牧野社長からの信頼は厚い。

 牧野社長は時流に染まらず、長期的視野での経営判断に定評があった。それが保守的だと対外的には思われる面もあったが、牧野社長だからやむなしと受け止められることが常だ。今後、経営体制が変われば、こうしたことは通用しにくい。

 牧野フライス製作所は牧野社長の下に結束した会社だ。井上次期社長には、いかに社内をまとめ上げ、同時に新しいマキノ像を社外に打ち出していくかが、問われる。
(文=六笠友和)
※年齢は当時のもの

日刊工業新聞2016年2月2日

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
うちの自宅から徒歩3分のところに牧野フライスの本社がある。一番近い上場企業なのでシンパシーは半端ない。それを割り引いても牧野前社長の身の引き方、後継者選びをみると応援したくなる。

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