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送電ケーブル火災、電線メーカー各社“交換需要”の期待と不安

事業縮小で「CVケーブルを生産できる国内拠点数は約半分」
 埼玉県で起きた地中送電ケーブルの火災を受け、電線業界ではケーブル交換の需要を見極めようとしている。今回の火災は旧式ケーブルの老朽化が原因とみられており、計画中のケーブル交換工事が早まる可能性が出てきた。30―40年の耐用年数を迎えるケーブルは首都圏だけで約1000キロメートルにも及ぶため、敷設工事費は数千億円規模になる見通し。仮に交換計画が前倒しになり発注が急増すれば“特需”となるが、一方で受注増に対応できるかどうか懸念する声も出ている。

 今回、原因とされた油入り紙絶縁(OF)ケーブルは、大電力送電に適しており高度経済成長期に普及した。給油装置などのメンテナンスを行うことで、交換しないで使い続けるケースもあった。

 1990年以降は絶縁体に樹脂を使ったCVケーブルが主流になり「現在ではCVケーブルに置き換わり、OFケーブルを製造している企業はほとんどいない」(日本電線工業会)という。今後は20年の東京五輪・パラリンピックを見据え「給油メンテナンスではなく、ケーブルそのものの交換需要が高まる可能性がある」(大手電線メーカー)と指摘する。

 実際、古河電気工業はCVケーブルへの交換需要が18年から本格化すると見込み、生産体制を整備。昭和電線ホールディングス(HD)は「CVケーブルへの交換を引き続き提案していきたい」という。CVケーブルは点検頻度を減らせるなど、東京電力HD側にとっても大きなメリットがある。

 一方、交換の前倒しにより受注が急増した場合、電線業界にも課題が出てくる。大手電線メーカー幹部は「数キロメートルの旧式ケーブルを引き抜いてからの作業になる。CVケーブル用の変圧器など周辺機器も変わってくる。首都圏だけでも到底5年程度でできる量ではない」と語る。人材面でもOFケーブルを熟知している技術者は引退しており、CVケーブルの技術者だけでの作業では限界があるのが現状だ。

 さらに、近年では交換作業を行える企業すら限られている。すでに電線各社では国内の市場縮小に合わせて事業の再編に乗り出している。10月には古河電工とフジクラの共同事業会社のビスキャス(東京都品川区)が共同事業を解消し、事業の譲受を発表。地中電線事業は古河電工が継承し、生産拠点も全て保有した。フジクラは「電力・インフラ事業は売り上げの20%程度だが、国内は縮小傾向。利益率もぎりぎり黒字」と話す。

 また昭和電線HDは「CVケーブルを生産できる国内の生産拠点数は(活況だった以前に比べて)約半分となっている」と説明する。現在の生産体制を憂慮する一方、国内市場は縮小傾向にあるだけに一過性の設備導入には慎重だ。事業としても昭和電線ケーブルシステム(同港区)に集約し、売り上げは約200億円程度と小規模になっている。

 近年、電線各社はケーブル交換需要の停滞を踏まえ、事業規模を縮小するなどビジネスバランスを重要視してきた。急な需要が生じたとしても休眠設備の活用などで対応し、設備投資に頼らない体制が求められる。コストを抑えつつ、高品質な製品を安定的に供給するにはどうすれば良いか、各社の知恵と工夫が試される。
(文=渡辺光太)
日刊工業新聞2016年10月21日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
電線メーカーはこの10年で集約、リストラが行われた。どこまで交換需要の発注があるが今のところ不透明な部分もあるが、利益なき繁忙になりかねない。

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