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日本がリードする次世代がん治療「BNCT」 見えてきた実用化

困難だった再発性腫瘍などで適用可能。競争が少ない分野で優位性を確保
日本がリードする次世代がん治療「BNCT」 見えてきた実用化

京大は脳腫瘍などの20数例の臨床試験を17年内にも終える見通し(原子炉実験所に設置している加速器)

 次世代がん治療として期待される「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」の研究が進展している。国内での臨床試験が安全性の評価から有効性の評価へと移行し、実用化が現実味を帯びてきた。難治性がんに対応でき、正常細胞にもほとんど影響がないとされるBNCT。有効性・安全性の両面でがん治療の新たな選択肢となるか。

 大阪府熊取町にある京都大学原子炉実験所。2012年から加速器で進められてきた脳腫瘍や頭頸部(けいぶ)がんの臨床試験が今年、安全性を確認する第1相試験を終え、実用化に向け有効性を確認する第2相試験に移行した。今後、20数例の臨床試験を17年内にも終え、薬事申請、医療機器承認を目指している。

 BNCTはエネルギーの低い中性子と、がん細胞に集積するホウ素化合物を利用し、がん細胞をピンポイントで破壊する最先端の放射線がん治療法だ。

 がん細胞のみに集積するホウ素薬剤(BSH、BPA)を事前投与し、陽電子放射断層撮影装置(PET)でホウ素のがん細胞への集積状態を画像化。BNCTの適応・不適応を診断した上で患部に中性子を照射し、がん細胞を破壊する。

 中性子は飛距離が細胞一つ分(約10マイクロメートル)と短く、細胞単位で選んで照射することが可能。正常細胞をほとんど傷つけず、高い線量を照射できるため、照射時間も約30分、1―2回と体への負担も少ないのが特徴だ。

 京大原子炉実験所の研究では住友重機械工業が中性子を発生する小型のBNCT用加速器(サイクロトロン)を手がけ、ステラファーマ(大阪市中央区)がホウ素薬剤の開発で協力している。

 がんの放射線治療では、ほぼ全てのがんが対象となるX線治療に対し、スポット的な照射が可能な陽子線治療、炭素線治療なども注目されている。BNCTは対応が困難だった再発性腫瘍、多発性腫瘍にも適応が可能だ。実際、BNCTの臨床試験で再発がんを対象にしているのも「競争が少ない分野で優位性を確保する」(住重)のが狙いだ。

 BNCT装置の設置も15年には総合南東北病院(福島県郡山市)に広がった。18年には大阪医科大学(大阪府高槻市)に開設される計画で、研究に拍車がかかる見通しだ。

 米国で1951年に研究が始まり、その後頓挫したBNCT。日本に研究が引き継がれ、長い道のりを経てきた。今では日本が最も実用化に近いポジションにあり、次世代がん治療で世界をリードしている。
(文=村上毅)
日刊工業新聞2016年10月4日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
住友重機以外では三菱重工や東芝なども熱心。日本の医療機器は輸入額が輸出額を大幅に上回る貿易赤字が続いている。2014年の赤字額は約8000億円。政府は医療機器で2020年に1兆円の輸出を目指しており、BNCT装置が実用化されれば、輸出拡大の機器としても期待されている。

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