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トヨタの参入で家庭用ロボット市場は本格化するか?

手のひらサイズの「キロボミニ」発売へ
トヨタの参入で家庭用ロボット市場は本格化するか?

人とコミュニケーションする「キロボミニ」

 トヨタ自動車はコミュニケーションロボットに参入する。2017年に手のひらサイズの小型ロボット「KIROBO mini(キロボミニ)」を発売する。本体価格は3万9800円(消費税抜き)と、10万円台が多いコミュニケーションロボットの中で、低く設定した。キロボミニは車や住宅とつなぐコミュニケーションツールとの位置付け。消費者向けの商品化を先行し、実用化を予定する生活支援や介護支援向けも含め、ロボット事業全体でトヨタブランドの認知度を確立する。

 トヨタは消費者に愛着を持ってもらえる商品を車以外にも生み出すプロジェクトを進めている。キロボミニは実質的に発売第1弾。13―14年に国際宇宙ステーションで会話実験などをしたロボット宇宙飛行士「キロボ」をベースに開発した。

 キロボミニは人の表情をカメラで読み取って感情を推定し「楽しそうな顔をしているね」などと会話する。マイクを三つ搭載し、人の声の方向に顔を向けて話す。個人の識別はできないが、人との情緒的なつながりを意識し「少しずつ成長しながらパートナーになる存在」(吉田守孝専務役員)とした。

 短距離無線通信「ブルートゥース」を用いて専用アプリケーション(応用ソフト)の入ったスマートフォンで制御し、本体側に必要な機構を少なくした。携帯電話回線やWi―Fiを本体に搭載する他社製より価格を抑えた。アプリの月額使用料は300円程度。トヨタの車両販売店で販売する。生産はVAIO(長野県安曇野市)に委託した。

「心のキャッチボールができる存在」


 トヨタ自動車が2017年に投入するコミュニケーションパートナー「KIROBO mini(キロボミニ)」で、訴求するのは製品の「情緒的な価値」(吉田守孝専務役員)だ。「車は“愛車”といった“愛”がつく数少ない工業製品」というのが豊田章男社長の持論。トヨタは車以外にも「愛」の付く商品を提案する試みを本格化する。一方で、コミュニケーションロボットの普及には課題もある。

 「心のキャッチボールができる存在」―。キロボミニを開発した片岡史憲新コンセプト企画室主査はこう表現する。トヨタが提案する人とキロボミニの関係性は、「親子」のそれに似ている。

 人の顔を見つめ、手や頭を動かす時は赤ちゃんのようにゆらゆらと揺れる。発光ダイオード(LED)の目でまばたきし、時に人が真剣な顔をすると、「何か頭にくることあった?」と話しかける。

 トヨタは正式にはキロボミニを「ロボット」とは言わず、あえて「コミュニケーションパートナー」と呼ぶ。15年の東京モーターショーにキロボミニを実験展示し、約2000人にロボットに求める条件を調査。その結果を踏まえ、人とのコミュニケーションに特化し、価格を抑えた。さまざまな機能がある「ロボット」というよりも「パートナー」として訴求する。


アイボで実績


 生産を委託するVAIO(長野県安曇野市)はソニーが母体。イヌ型ロボット「AIBO」(アイボ)の生産実績を持ち、基板の高密度設計や実装技術に優れている。トヨタは「アイボの生産や修理のノウハウ」(片岡主査)を活用して完成度を短期間で高めた。

 トヨタがキロボに期待するのは、車や家などトヨタの各事業をつなぐことだ。車には車載通信機(DCM)の標準搭載を進めており、鍵の開閉や車の位置、走行情報など膨大なデータが蓄積される。HEMS(家庭用エネルギー管理システム)も同様に、電力使用量などの生活データが収集できる。

 キロボはこうした情報を収集し「キロボミニらしく表現して伝える」(片岡主査)ことで他社製品との差別化を図る。

普及にはハードルも


 ただ、キロボを含むコミュニケーションロボットの普及には、いくつかのハードルがある。まず、マイクなど声の聞き取りに必要な技術の進化がまだ足りない。さらに対話データを学習して進化する人工知能(AI)の高度化と、人感センサーや照度計、温度計などの家庭に備えたセンサー類との連携を一層進めることも必要だ。

 こうしたハードルをクリアすれば、コミュニケーションロボットは「飽きられず必要不可欠な存在」になる。
(文=名古屋・杉本要、石橋弘彰)
日刊工業新聞2016年10月4日付記事を再編集
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
トヨタが「トヨタらしくない商品」(吉田守孝専務役員)を世に出します。未完成でも一緒に成長し、心を通わせられるという存在を目指します。販売手法など手探りな部分も多いですが、税込4万円という価格は間違いなく他のロボットより低めに設定し、普及を意識していると思います。「一家に1台」を車だけでなくロボットでも実現できるかもしれませんね。

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