科学ベンチャーの「勘違いする力」を支援する日本ならではのエコシステムとは?

<情報工場 「読学」のススメ#15>『「勘違いする力」が世界を変える。』(丸 幸弘 編)

スタートアップではなくベンチャー企業を支援


 近年、日本のメディアや企業の広報などで、ベンチャー企業と同じ意味で「スタートアップ」という言葉が使われることが比較的多くなっているようだ。だが、本来のスタートアップの意味は、ベンチャー企業とは異なる。

 そもそもベンチャー企業は和製英語であり、そのまま米国などで使うとベンチャーキャピタルか、ベンチャーキャピタルの支援を受けている企業のことかと勘違いされることだろう。日本では既存の大企業ではできない、あるいはやろうとしない新規性の高いニッチな事業に挑戦する小規模の企業、といった意味で使われることが多い。

 スタートアップはシリコンバレー発のIT企業に多く、新しいビジネスモデルやサービスで出資を受け、短期間に急成長した企業を指す。そのほとんどがエグジットと呼ばれる、大企業への事業売却や上場をめざしており、いわばできるだけ早期に一攫千金を狙う企業群といえる。

 シリコンバレーにはスタートアップを支援する「Yコンビネーター(YC)」という組織がある。そこでは単に資金面のサポートをするだけでなく、起業を志す者にアイデアやビジネスモデル、投資家へのアピールの仕方などをアドバイスする。支援というより養成機関の役割を果たしており、可能性を認められて“入学”するスタートアップの卵たちの中には、はっきりと起業アイデアが固まっていないケースも少なくないという。また、「ピボット(旋回)」といってアドバイスを受けながら起業アイデアそのものを別のものに変更することも良しとされ、むしろ推奨されている。

 『「勘違いする力」が世界を変える。』(リバネス出版)に登場する11社は、いずれもスタートアップとは言えない。紛れもない「ベンチャー企業」だろう。同書では、株式会社リバネスの代表取締役CEO・丸幸弘さんが、関わったベンチャーの創業者たちと対談し、それぞれの思いとアイデアを聞き出している。

 同書に登場するベンチャー創業者のほとんどは、大学などで自ら研究を続けてきた成果を起業アイデアに結びつけている。リバネスは、そうした「科学技術分野において世界を変えたい」という志と情熱をもつ研究者を発掘し事業化を推進させる「テックプランター」という仕組みを設けた。資金やノウハウ、人材が不足しているために画期的な研究成果によるアイデアを具現化できない研究者と、ものづくりに長けた町工場や資金が豊富な大企業を結びつけるといった、ベンチャー支援のエコシステムを構築しようとしているのだ。

 11社の創業者たちが共通してもっているのが、書名にもある「勘違いする力」だという。ここでは「この技術は必ず世の中で役に立つはずであり、世界を変えることができる」という信念を「勘違い」と表現しているのだと思う。自分の研究、技術、アイデアの将来の可能性を信じ、長期的視点をもってしつこく追い続ける姿勢が「勘違いする力」であり、それは研究者の特性の一つともいえる。

 シリコンバレーのスタートアップも、もちろん「世界を変えたい」という強い情熱をもっているに違いない。しかし彼らはあくまで短期での成功をめざしており、言ってしまえば「何」で成功しようがかまわない。スタートアップは「人」、ベンチャー企業は「技術とアイデア」に重きが置かれるということだろうか。どちらが良いということではないが、埋もれた研究成果が豊富にあり、人材が育っていない日本にとっては、シリコンバレー型のスタートアップより、ベンチャー創業者の「勘違いする力」に期待する方がいいのだろう。

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冨岡 桂子

冨岡 桂子
10月03日
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日本ではベンチャー企業が育たない、成功しないと言われる。それは、失敗を許さない文化があるために、成功しないリスクが高い起業を職業の選択肢にしない人が多いこと、つまり起業をする人が少ないこと、そして一度失敗すると再起するのが難しいことなどが挙げられる。ただその環境のままでは日本はどんどん世界に遅れを取るだろう。何度でも挑戦できる文化を醸成していくことが必要だ。

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