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中国産「有機EL」は大化けするか

ディスプレーのサプライチェーン国産化へ。最後のピースが製造装置
 中国ではディスプレー産業への投資が過熱している。現在、生産規模が急拡大しているのは、テレビ向けを中心とした大型液晶ディスプレーだ。中国のBOEやCECパンダなどの地場メーカーが、政府の補助金を得て生産能力を増強している。

 まずは国内で消費されるディスプレーを内製し、次に外販を狙う。中国の大型液晶の出荷台数シェアは、2016年に韓国、台湾に次いで23%になる見通しだ。20年にはこれを35%まで引き上げ、首位獲得をもくろむ。

 スマートフォン向け中・小型ディスプレー生産の拡大も計画する。現在は低価格品が中心だが、18年までに高画質なハイエンド品の生産を始める見込みだ。中国での増産を受け、韓国や台湾、日本製液晶ディスプレーの販売は鈍ってきている。

 またスマホへの有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)ディスプレーの採用拡大を受け、現地メーカーも早期の参入を目指している。BOEや天馬微電子は展示会で有機ELディスプレーを披露。工場への投資にも着手した。狙うのは主に中国スマホメーカーへの採用だ。

 有機ELディスプレーに必要な低温ポリシリコン(LTPS)技術は、まだ成熟していないが「まずは投資しないと何も始まらない」というのが彼らの考え。設備投資と同時に技術を高めようとしている。すでにLTPSの次の段階であるガラス基板(固定式)の有機ELへ投資を始めた。2―3年後に量産を開始し、長期的には最終段階であるフレキシブル有機ELの生産を実現する計画だろう。

 有機EL技術の向上に向け、人材の獲得活動も激しさを増している。大型液晶の生産ラインを立ち上げる際は日本や台湾からの人材がメインだったが、今は韓国のサムスンディスプレイやLGディスプレイのベテラン人材が対象だ。

 中国の最終目標は、ディスプレーのサプライチェーンを国産化すること。ディスプレー産業が発展すれば化学や半導体、組み立てなど他の産業も発展するからだ。その最後の要素が製造装置になる。政府は19年までの補助金で、製造装置の開発に特別枠を設けている。しかし、このタイミングまでに装置を国産化するのは難しいだろう。助成期限を後ろ倒しにする公算が大きい。中国のディスプレー産業への積極的な投資は、当面続きそうだ。
(文=デービッド・シエ IHSテクノロジーシニアディレクター)
日刊工業新聞2016年9月29日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
ディスプレー産業への投資が過熱している中国について、IHSテクノロジー、シニアディレクターのデービッド・シエ氏による解説です。中国の「カネにモノを言わせる」政策により技術力は着々と高まっており、内製化に向けた下地は整いつつあります。経済環境の変化などもあり計画通り進むとは限りませんが、テレビやスマホ向けディスプレーの最大消費地である中国で、これから地場以外のメーカーがどう戦っていくのか。差別化戦略や販路の一層の強化や新機軸を打ち出せるかが重要になりそうです。

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