ニュースイッチ

DeNAはなぜ小学校でプログラミング教育を始めたのか~南場さんの強い思いとは

「米国の人材ポートフォリオは戦略的。日本で活用の議論はすぐ『女性』とか『外国人』になる」
 日刊工業新聞とニュースイッチでは「リケジョ」の企画を連載中。一方で、女性を区別することに否定的な意見もある。ディー・エヌ・エー取締役ファウンダーの南場智子さんは以前からその主張を繰り返してきた。IT企業の経営者でありながら本人は理系学部出身でもない。南場さんの学生時代やリケジョの活用方法、女性の働き方などについて聞いた。

 ―南場さんは中学・高校と断トツに勉強ができたそうですね。
 「私、記憶力が悪いんです。一夜漬けで試験が終わったら全部忘れる。だから暗記物じゃない理系がすごく得意でした。文系科目では唯一、海外にペンフレンドがいたから英語が好きで。うちは父親がすべての意思決定権を持つ家庭で、津田塾大の国際関係と英文に受かったんですが、父親が即決で英文に決めました」

 ―世界のIT大手企業の経営者はエンジニアが多いです。起業前後で困ったことは。
 「一度、プログラミングを学ぼうかな、と考えました。でも守安(功現社長)に相談したら、今からやっても時間の無駄だから、得意なところに集中して引っ張ってほしいと。投資の意思決定はその都度知識を勉強しているし、理系卒じゃないことが不利だと感じません。もともと私は完全に左脳人間で情緒とか苦手。文系卒でも理系的に考える人もいるし、ステレオタイプに区分けしても意味がない。それは『男女』も同じです」

 ―去年の10月から佐賀県武雄市の公立小学校で1年生を対象にプログラミング教育の実証実験を始めましたが。
 「社会ではバーチャルの割合が大きくなって、ネットで創作活動ができないと利用者だけにとどまってしまう。プログラミングの素養があれば作り手になれるし起業もしやすい。私は義務教育にすべきだと思いますよ。ソフトウエア技術が国力を左右する時代に、日本はコンピューターサイエンスの人材が全然足りていない。米国は人材ポートフォリオを戦略的に算出して、学部構成まで考えている。日本で人材活用といえば、『女性』とか『外国人』とかの議論になってしまうけど、本当に大事なのは、どういう人材が何年までに何万人必要という発想です」 

 ―最近は娘を理系に進学させたがる親が多いと言われています。
 「よいことだと思いますよ。私は米国留学で経済学問というよりは、探求することを学びました。理系は仮説を立ててもっと深く探求しますよね。あとは職業選択に直結する進学を18歳の時にさせてはいけないと思います。勉強が一番できるからとりあえず東大医学部に行って、『そんなに医者になりたくない』という人が結構いたりする。もうちょっと世の中にどんな仕事があるか、視野を広げてから専門教育へ進む方が悲劇は起こらない」

 ―南場さんは人事を含め女性を優遇しすぎることは、逆に不平等になるとよく発言されています。
 「仕事において女性であることをあまり意識したことがないし、女性だから不利だと思ったことはないですね。得なことはあるけど。私たち夫婦は籍を入れていない事実婚なんです。結婚後、役所に行くのが面倒で婚姻届を出さずにきて、もう入籍しないことにした。これからパスポートの名前が変わるのは嫌。個人の実績が重視される研究者などは、ビジネスで使う旧姓のままでいいのでは。ディ・エヌ・エーは女性として働く選択肢を狭めないように、結婚や出産、介護などが理由で退職しない制度を、堂々と活用できるようにしています」
(聞き手=明豊)

 <略歴>
 南場智子(なんば・ともこ)新潟県出身の53歳。マッキンゼーを経て1999年に起業。2011年に病気の夫の看病のため社長を退任。一昨年から仕事に本格復帰し、現在は新卒採用やヘルスケア事業に従事する。今年1月には横浜DeNAベイスターズのオーナーに就任した。
日刊工業新聞2015年04月07日リケジョ企画特集
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
南場さんいわく、ITエンジニアを増やそうとしたら、なるべく多くの子どもたちに触れさせて、親しみを持ってもらうことだという。昨年秋から佐賀県の山内西小学校で1年生40人を対象にプログラミングの授業を8回行った。南場さんも何回も出向いて、涙が出るほど感動したという。武雄市は小学生全員がタブレットを持っていて、ゲームやアニメーションを喜んで作った。タブレットを渡しただけでは利用専用になる。アプリを提供することで、使うのも楽しいけど、作ることもできることを教えたかったという。みんな答えが違って自分でシナリオを書くので教育にもいい。最初は南場さんに目も合わせてくれなかった先生も、徐々自分から率先して指導するようになったとか。

編集部のおすすめ