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離れたところから人の本当の感情が分かってしまう装置、MITが開発

エンタメや医療、スマートホームなどに応用も
離れたところから人の本当の感情が分かってしまう装置、MITが開発

カタビ教授(中央)らの研究チーム(Jason Dorfman/MIT CSAIL)

 興奮、喜び、怒り、悲しみといった人間の感情を、電磁波を使って自動的に検知する装置を米マサチューセッツ工科大学(MIT)コンピューター科学・人工知能研究所(CSAIL)が開発した。体にセンサーを着けなくとも、離れたところから対象者の呼吸や心臓の鼓動のわずかな変化をとらえ、87%の精度で感情を言い当てることができるという。

 「EQラジオ(EQ-Radio)」と名付けたもので、10月3日から7日までニューヨークで開催されるモバイルコンピューティング・ネットワーキング国際会議(MobiCom 2016)で発表する。また、研究リーダーであるディナ・カタビ(Dina Katabi)教授が設立した高齢者支援ベンチャー企業のエメラエルド(Emerald)でも事業化に取り組む計画だ。

 現在の感情検知手法は画像処理による顔の表情分析や、体にセンサーを付けるやり方が一般的。ただ顔の表情は感情と必ずしも一致しない場合があるほか、心電図モニターなどのボディーセンサーは着脱するのが面倒で、実験を繰り返しているうちに位置がずれデータが不正確になる恐れがあるという。

 それに対し、EQラジオでは、個人の体に電磁波を照射し、その反射波から心電図並みの精度で心臓の鼓動データを得ることができるという。反射信号を機械学習の独自アルゴリズムで解析し、心臓の鼓動や鼓動と鼓動の間のわずかな時間的変動をとらえ、興奮レベルと情緒レベルを検出する。たとえば、興奮度合いが低く、ネガティブな情緒の場合は「悲しい」とし、興奮度合いが高く、ポジティブな情緒の場合は「興奮」と類推できる。こうした相関は個人によってばらつきがあるものの、初めて計測した人でも70%の確率で感情を言い当てることができたとしている。

 実験では被験者1人に2分間のビデオを5セット見せて、4つの感情のうち一つにつながる記憶を呼び起こしてもらい、87%の精度で感情を当てることができた。顔の表情から感情を推定するマイクロソフトの「EmotionAPI」と比べても、喜び、悲しみ、怒りの検知精度はかなり高かったという。

 ただ、開発の上で課題となったのは、反射はからいかに不必要なデータを取り除くかという点。呼吸による胸の上下動のほうが心臓の動きより距離が大きいため、鼓動のデータが隠れてしまう。そこで研究チームでは動きの距離ではなく加速度に注目。胸の上下動がほぼ一定のペースで加速度が小さいことから、速さの変化が大きい心臓の鼓動の信号を抽出できたという。

 有望とみられる応用分野は、エンターテインメントや消費者行動計測、ヘルスケアなど。映画や広告映像を見た人の反応をリアルタイムに把握することができ、スマートホームでは感情を自動的に検知して室内温度や換気を調節したり、気分やムードに合った音楽をコンピューターが勝手にかけてくれるようになるかもしれない。さらに、将来はこうした技術が、うつ病や精神的障害などの診断、あるいは不整脈などの非侵襲モニタリングに使われる可能性もあるという。

ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
確かに、顔の表情から感情を抽出するソフトだと「顔で笑って心で泣いて」といった状況には対応できない。EQラジオなら、感情を顔に出さない、あるいは違う表情で相手を騙すポーカーに応用できるかもしれない。

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