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世界最強の製造業、GEのイメルトCEOが見据える先

不確実な世界での勝負に必要なのは「まったく新しいルールブック」
世界最強の製造業、GEのイメルトCEOが見据える先

GEのイメルトCEO

 世界経済をとりまく不確実性はその度合いを増しており、変化のスピードも確実に速くなっています。今年6月の“ブレグジット”を、5年前に誰が予測していたでしょう。この先にもまた、予測できないような出来事が起こるでしょう。こうした時代に、企業はいかに経営の舵をとるべきか。「企業は30年ごとに自らを壊し一から築き上げなければならない」と語り、“デジタル・インダストリアル・カンパニー”へのゼネラル・エレクトリック(GE)自身の大改革を進めているジェフ・イメルトの考えを、ニューヨーク大における彼のスピーチ(実施は今年春)の抜粋でご紹介します。

グローバル化に対する反論は、かつてないほど高い


 私たちがいま直面しているグローバル経済は、非常に不安定です。私のこれまでの経験の中でも、これほど不確実な時代はありませんでした。制度に対する不信や保護主義が台頭し、グローバル化に対する批判もかつてないほど高まっています。

 成功を追求するなら、過去のルールブックに頼っていては太刀打ちできないでしょう。この時代に必要なのは「ピボット」することです。バスケットボールで見られるように、軸足をしっかり定めて身体を回転させ次のアクションをみつけていく動作のように、機動力と大胆さ、そして批判を恐れない精神が必要です。

 私自身はGEで、生産性、イノベーション、グローバル化といったものが成功の鍵だった時代にキャリアを築きました。1982年の入社当初、GEの売上の8割を米国に依存していましたが、今では7割が海外です。180カ国以上に顧客企業がいて、毎年200億ドル以上もの製品を世界中に輸出しています。GEはグローバル経済のなかに織り込まれています。

 GEのような、人々にやりがいのある仕事をもたらし、よい製品を作りコミュニティに貢献す企業について、皆さんは一定の価値があるとお考えになるかもしれません。政府は成長促進に取り組み所得格差や失業率といった深刻な問題への対処に努力を払っている、世界の経済統合は良い作用をもたらし、今後も拡大し続けるだろうと考えているかもしれません。

 ・・・本当にそうでしょうか。
 今や大企業は信頼を失っており、政府や国際機関は世界の課題にうまく対応できずにいます。そして、グローバル化に対する反論は、かつてないほど高まっています。

 これは米国に限った話ではなく、世界中に当てはまります。こうした考え方は欧州やラテンアメリカなど世界中で広がっています。アジアやアフリカでは保護主義が勢いを増し、中国は自国経済をよりサステナブルで包括的なものにしようとシフトしています。

 グローバル経済の成長スピードはあまりにも遅く、多くの人は“置いてきぼり”を食らっているように感じ始めています。アウトソーシングによって仕事を奪われた人もいます。中間層は依然家計を圧迫され続け、所得格差は許容できない水準にまで広がっています。テクノロジーやグローバル化の競争が進むと同時に、人々は自分の仕事や収入への影響を不安視し、企業や政府の方針に不信感を抱くーーこれは当然のことです。

成長のスピードが遅いのは企業にも責任がある


 こうした事態の要因はさまざまですが、企業にもその責任があります。生産性成長はまるで“亀の歩み”のようにスローで、資本投資は落ち込み、特にインフラプロジェクトへの融資は得難くなっています。しかし、投資なくして生産性は向上せず、結果として高賃金を生み出すこともできません。

 同様に、テクノロジー側にも原因はあるでしょう。イノベーションは成長を牽引する一方で、不安定さも助長します。インターネットは人を繋いでくれますが、必ずしも雇用を創出してくれるわけではありません。テクノロジーはある意味で、企業や人の競争を煽ってきました。これが、経済の不安定さに拍車をかけているのです。

 もちろん政府にも責任があります。米国では規制の拡大に伴ってインフラ整備が滞っています。貿易協定の議論が進まず、輸出銀行が機能不全に陥っている世界で唯一の先進国であり続けています。税法は30年間も変更されず、移民制度は崩壊し、莫大な構造的財政赤字が未来に影を落としています。こうした逆風にさらされる中で騒々しい大統領選挙は繰り広げられ、保護主義者たちが、失業率や賃金格差を盾にグローバル化を非難しています。

ローカライゼーションとグローバリゼーション


 成長にグローバル化が欠かせないのは言うまでもありません。しかし、私がかつて経験してきたような、貿易統合やグローバル統合に基づくグローバル化は変わりつつあります。だからこそ、大胆に「ピボット」することが必要なのです。

 世界に蔓延する保護主義に立ち向かうには、フレキシブルな考え方が不可欠であり、企業は独自に世界に適応していかなければなりません。政府の関与なしに公平な競争の場を確立する必要があり、これには劇的な変化が求められます。GEはその実現に向けて次のことを推進します。

 まずはローカライズ。これからの時代、持続的な成長のためには海外拠点の現地能力が求められます。GEは常に優れた米国の製造企業であり続けることを目指す一方で、中国、インド、南アフリカ、ナイジェリア、ハンガリーなど世界中に工場を展開し、広範なサプライチェーンを管理しています。そこに低賃金を求めるのではなく、“ものづくり”の戦略によってその市場を開拓していくのです。

 今後も米国のために米国での生産は続ける意向ですが、輸出は減っていくかもしれません。それと同時に、サウジアラビアのような巨大なエンドユーザー市場で、生産のローカライズ化を進めていきます。

 GEの競争上の強みはデジタル技術を活用したる生産性向上です。発電施設や病院をインダストリアル・インターネットにつないでデジタル化し、グローバルに生産性を向上させています。

製造業はデジタルリーダーになる必要がある


 たとえばパキスタンではエネルギー効率や発電能力を高めるためにデータ・アナリティクス(分析)を活用しています。インドでは遠隔地の人々へ医療サービスを提供するためにインターネットを活用しています。中国では、エンジンの稼働状況のアナリティクスによって航空会社の生産性を向上させています。製造業のあらゆる企業は、デジタルリーダーになる必要があります。デジタル化は、次の企業競争の軸になります。

 またGEは世界の各拠点において、現地の問題を解決することにより成長を加速させています。現地の力を巻き込んで問題解決するイノベーションを推進すれば、世界をより望ましいかたちで機能するものにできるはずです。世界中のGEの技術者たちはこうして、より手に入れやすくクリーンなエネルギーの実現や、遠隔地のコミュニティへの医療サービス提供といった新たな手法を考案しています。発展途上国でのソリューション開発が、先進国市場の成果を向上させるのです。
 
 融資は、グローバルな成長にとって新たな酸素の役割を果たし、資本は未来のグローバル化の燃料となります。GEは新たな投資の流れを活用できる体制を確立しています。中国の「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」構想が中央アジアや中東、アフリカで新たな関係を構築しようとしているように、多くの国は輸出金融を拡大させています。

 GEはこれらの国に投資する方法、これらの国の資本にアクセスして輸出拡大を支える術を身につけてきました。アメリカの輸出入銀行に頼ることができない今、これは非常に重要なことです。企業は自力でグローバル化を進め、運命を支配する必要があるのです。

成功を収めるにはよりシンプルな組織に


 成功を収めるには、よりシンプルな組織が求められます。変革を起こすには、これまで以上に無駄をそぎ落とし、分散化されスピード感のある、新たなビジネスモデルが必要となります。複雑で中央集権型の官僚体制はもはや通用しません。GEはローカルチームへの権限委譲を進め、批判を恐れずリスクを取ることを推奨し、機能を移管しようとしています。

 グローバリゼーションというと私たちは哲学的に考えがちですが、その実は、日々現場で繰り広げられている現実です。成功に求められるのは、何百もの細かな事柄と現地の状況を踏まえた着実な意思決定です。

 優れたグローバルリーダーは、現地の社員がいかにその地の文化に根ざして仕事をしているかを評価し、チームの業務をその国にとって有意義なものにしようと努めます。事業を行う各国々で、GEが最高の人材を雇い入れることができるのはこのためです。

批判を恐れず、大胆に変革を成し遂げること


 私が最初に表現した「ピボット」とは、ここで挙げたような大胆な行動のことです。これらのアクションを取ることで、これからも成長することができると、私は確信しています。グローバル化についてひとつ私の知る確かなことは、常に多数の批判が付きまとう、ということです。

 私もキャリアの初めの頃には、人がどう思うのかが非常に気になりました。しかし時が経つにつれ、完璧さよりも前進することにこそ価値があり、価値あるものはつねに粘り強さと打たれ強さを求めるものだと気付いたのです。

 私の盾は、遂行能力、ハードワーク、そして公平さです。GEの能力主義は最高水準です。米国はもちろん、世界中のどこにおいても当社の事業において差別は存在しません。同様に、当社の工場チームは「市場は保証されなくても努力は保証される」ことを心得えており、常に勝利を収めるためにプレーする集団です。

 そう、フレキシブルさと大胆さを身につけ、批判を恐れるのをやめるのです。GEは今、新鮮で全く新しい考え方に基づいたグローバリゼーションのまっただ中です。我々のゴールは、世界一競争力のある経済的なエコシステムを構築することです。

 民間企業の力や創意工夫を通じて、やりがいのある仕事を創出すること。世界最大の問題を解決するために能力やイノベーションを還元すること。この課題を達成するのに、エリート主義や権力組織は必要ありません。自ら「競技場に立って」プレーしなければ、誰かのために仕事を創出することなどできません。

 現在、アメリカ国内で見られる不協和音は緩慢な成長と富の格差が主な原因です。これらの問題は官僚主義によっても解決されることはないでしょう。世界をありのままに見ることができ、変革を意欲的に推進するリーダーが必要なのです。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
日立の中西会長やコマツの大橋社長などはイメルト氏とコミュニケーションをとることが多いという。経営者といえば、米国ではイーロン・マスクやザッカーバーグ、日本では孫さんや永守さんなど創業者にスポットがあたることが多い。イメルト氏は起業家ではないが、大企業のマネジメント力でも日本は大きく遅れをとっている。日立の中西会長は、デジタル、IoT時代のリーダーは社内教育だけでは育成できないという。 http://newswitch.jp/p/5318 日本の大手製造業で、「変革を意欲的に推進するリーダー」をどのように輩出していけるか。個人的にイメルト氏の発言で注目するのは「世界をありのままに見るこ完璧さよりも前進することにこそ価値があり、価値あるものはつねに粘り強さと打たれ強さを求めるものだと気付いたのです」

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