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ローソンを子会社化する三菱商事。根底にあるBtoBの企業がやるべきこと

顧客目線をどれだけ高く保てるかがより重要な要素に
ローソンを子会社化する三菱商事。根底にあるBtoBの企業がやるべきこと

ローソンの竹増貞信社長(左)と三菱商事の垣内威彦社長

 三菱商事がローソンを子会社化する方向で最終調整に入った。1日には、伊藤忠商事が約4割出資するファミリーマートが、ユニーグループ・ホールディングスと経営統合したばかり。“大手商社の代理戦争”とも言われる小売り事業。三菱商事が同事業の競争力強化を通じ、商社業界の盟主奪還につなげられるかという点でも注目される。

 三菱商事はTOB(株式公開買い付け)を通じて、ローソンへの出資比率を現在の33・4%から50%以上に高める。株式取得額は1500億円程度となる見通し。ローソンへの経営関与をさらに深めることで、自社の食品原料などのグローバル調達網を従来以上に活用し、ローソンの商品力を強化するほか、アジアなど海外展開の加速を図る。

 商社は小売事業において、食品原料の供給から加工、物流、販売とサプライチェーンに対して自社の機能を提供し、収益に結びつけてきた。また消費者との接点を持つことでニーズを把握し、商品・サービス開発や海外展開につなげるという点から、各社は大手コンビニやスーパーマーケットに出資している。


「業界トップを取り戻したら、二度と譲らない」


 中でもコンビニは、食品販売から宅配便や公共サービスまで手がけ、日常生活に欠かせない「社会インフラの一つ」(三菱商事幹部)との位置付けで、今後も市場拡大を見込む。大手商社は、原油や石炭など資源価格の下落の影響を受け、2016年3月期決算で苦戦を強いられた。

 三菱商事は当期損益が創業以来初の赤字に転落。長らく維持してきた業界首位の座を伊藤忠に明け渡した。今後も資源分野は価格の早期回復が見込みにくく、インフラや機械、食料など資源以外の事業強化が待ったなしの状況だ。

 16年4月に始動した3カ年中期経営計画では、資源分野への投資残高を増やさない一方、非資源分野は自社で強みを発揮できる事業に投資する。また従来の事業投資にとどまらず、投資先の経営に積極的に関与し、企業価値を高める「事業経営」まで踏み込む方針を掲げている。今回のローソン子会社化の計画は、この方針にも合致する。

出遅れている海外展開を加速


 子会社化によって、考えられるシナジーがセブン―イレブン・ジャパンやファミリーマートに比べて出遅れている海外展開の加速だ。三菱商事の海外ネットワークを通じて、海外で現地パートナーの選定から商品メーカーや物流業者などを含めた“パッケージ”としてバリューチェーン全体を構築し、ローソンの海外進出を支援する。その点では、三菱商事が既にインドネシアでバリューチェーン構築の取り組みを進めており、その実績が大きな武器となりそうだ。

 三菱商事は同国で、小売業に強い現地財閥アルファグループと戦略提携を11年に締結。同社との合弁会社を通じて、製パンや製菓、飲料の製造事業を展開し、三菱商事は原料供給なども担っている。またアルファグループのネットワークを使い、ローソンも出店している。今後はインドネシア以外のアジアでも、こうした事業モデルをローソンを中心に展開する方針だ。

 商社業界の首位奪還に並々ならぬ意欲を燃やす三菱商事。16年4月に就任した垣内威彦社長は「業界トップを取り戻したら、二度と譲らない」と強い決意を語る。ローソンの成長とともに、自社の関連事業領域もいかに深掘りさせられるか。そのスピード感が、会社全体の成長のカギを握ることになりそうだ。
(文=土井俊)
日刊工業新聞2016年9月16日の記事から抜粋
原直史
原直史 Hara Naofumi
三菱商事は本質的にBtoBの会社だ。ローソンは言うまでもなく、BtoCだ。それもCの存在が極めて大きいビジネスだ。セブンイレブンのこれまでの成功は、顧客目線による商品サービスの提供によるところが大きい。その積み重ねが、セブンイレブンに対する好感度を高め、信頼につながっている。 業態は違うが、アマゾンも徹底した顧客目線で知られている企業だ。三菱商事という人材豊富なBtoB企業が、ローソン経営で成果を上げるためには、三菱商事の豊かな資産を使うことも大切だが、顧客目線をどれだけ高く保てるかがより重要な要素となるように思う。

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