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地味な「iPhone7」、アップル停滞で日本企業は選ばれる側から選ぶ側に!?

<追記あり>部品メーカーに大きな打撃?
地味な「iPhone7」、アップル停滞で日本企業は選ばれる側から選ぶ側に!?

「iPhone7」をプレゼンするクックCEO

 新型スマートフォン「iPhone(アイフォーン)7」で世界を驚かせたのはアップルでなく、任天堂をはじめ他社とのコラボレーションだ。魅力的なコンテンツは皮肉にも、端末の革新の地味さを鮮明にした。アップルの停滞が続けば、部品を供給する日本メーカーは戦略を問われる。

日本と「新しい」コラボ


 日本にとっては、見逃せない発表が多かった。アップルが米サンフランシスコで開いた新製品発表会で、任天堂の看板キャラクター「マリオ」の生みの親である宮本茂クリエイティブフェローが登壇。新作ゲーム「スーパーマリオラン」を、12月からiOS搭載のアップル端末向けに配信すると発表した。

 日本市場向けiPhone7にはソニーの非接触技術「フェリカ」を搭載し、10月に決済サービス「アップルペイ」を始める。電子決済を理由に従来型携帯電話を使う人や、iPhoneのためにスマホ決済を諦めていた人には朗報。フェリカ搭載は買い替えの動機には十分で、iPhone人気の高い日本での弱点を減らした格好だ。

 アップルウオッチではスマホゲーム「ポケモンGO」へ対応するなど、全体的に他社とのコラボが目立った。

スマホメーカーの勢力図は確実に変化


 ティム・クック最高経営責任者(CEO)が「これまでで1番」と強調したように、iPhone7は優れた製品にはなった。画面サイズ4・7インチの「7」と同5・5インチの「7プラス」で展開する。光沢感のある黒など新色や、防塵・防水性能の追加、処理速度や画質も上がった。ただ、正常進化の範囲で、驚きや革新性は乏しい。

 7プラスに搭載された複眼カメラは、望遠ズーム機能やボケ味を出す目新しさがあるが、中国のファーウェイに先を越されている。

 調査会社IDCがまとめた16年4―6月期の世界スマートフォン出荷台数は、首位の韓サムスンや3―5位の中華系スマホメーカーが台数とシェアを伸ばし、アップルは一人負け。iPhone7で流れを変えることは難しいかもしれない。

 日本の部品メーカーにとって、アップルの停滞は大きな打撃となる。各社は過度な1社依存からの脱却を図っているものの、16年3月期に日本電産は受注減少を受けて設備の減損損失を計上。太陽誘電など中華系スマホへの拡販が下支えする企業もあるが、スマホ市場の成長も鈍化しており、動向を注視する必要がある。

 停滞気味とはいえ、1モデル当たりの生産台数の多いiPhoneの新モデル発売は少なからず期待されている。村田製作所の藤田能孝副社長は「9―10月に向けて受注は上向く」と自信を示した。

 iPhone7の寄与に加え、同社が高シェアを持つ積層セラミックコンデンサー(MLCC)などは中国部品メーカーが不得意な領域。韓国や中華系スマホの増加や、高性能化に伴う部品点数の増加を享受しやすい。

 さらに、村田製は高周波(RF)スイッチ最大手の米ペレグリンセミコンダクターの買収や、小諸村田製作所(長野県小諸市)の新棟建設による開発加速で、スマホ向け技術の変化に備える。

 技術の変化で商機をつかむ部品もある。日本電産が提案する触覚デバイス用の精密小型モーターは、今後スマホの感圧式ホームボタンなどに利用が予想される。

カメラ進化も19年以降は汎用品化


 採用状況次第では、精密小型モーター事業の大きな巻き返しを期待できる。カメラの手ぶれ補正関連部品などを供給する部品メーカー幹部は、「複眼カメラのように、スマホのカメラ性能はまだまだ進化する」と話す。

 一方で、タクトスイッチやカメラ用アクチュエーターでトップクラスのシェアを持つアルプス電気は、「まだ市場は拡大するが、19年以降は汎用品化する懸念がある」(広報)と話す。稼ぎ頭のスマホ用部品に次ぐ事業の育成を急ぐ。

 TDKはスマホ市場成熟を背景に、売上高の4割を占める情報通信技術(ICT)事業に大なたを振るった。スマホ向け高周波部品事業で米クアルコムと提携。同社との合弁会社に売上高1200億円規模の事業を移管する見通し。

 同部品の競争力を高めつつ、合弁の株式を売却した場合の利益を含め、経営資源を成長分野に定めた自動車やIoT(モノのインターネット)に振り向ける。


中国スマホはけん引になるか


日刊工業新聞2016年8月25日


 電子部品業界で、中国のスマートフォンメーカー向けの需要が拡大している。中国スマホに強い村田製作所はもとより、TDKや太陽誘電などの販売も好調に推移。高速無線通信「LTE」サービスや高速化技術「キャリア・アグリゲーション」などの進展に伴い中国スマホの高機能化が進んでおり、高性能な部品を作る日系メーカーにとって追い風になっている。部品点数も増えることから、今後も電子部品各社にとって商機が広がりそうだ。

 直近の業績である2016年4―6月期で見ると、村田製作所は、中国でマルチバンド対応のLTE端末生産が増えたことにより、表面弾性波(SAW)フィルターの販売が増加。SAWフィルターを含む圧電製品の売上高は前年同期比17・1%増加となり、円高の中で唯一、増加した製品セグメントとなった。藤田能孝副社長は「4−6月期の中国向けの受注は前年同期比30%増加している」と語気を強める。

 TDKは16年度下期以降、SAWフィルターなど高周波部品と二次電池について「中国の得意先への販売が引き続き堅調に推移する」(山西哲司取締役執行役員)と分析。北米の新型端末の需要動向には不透明感が残るが「スマホ向け販売は全体として通期で想定通りの販売が見通せる」(同)と説明する。

 TDKの16年4―6月期業績は、円高に苦しみながらも大手の中では比較的好調だった。営業利益は村田製作所が前年同期比23・9%減だったのに対し、TDKは同9%減にとどまった。「北米が低調な中、中国の勝ち組(とされるメーカー)に部品や電池を拡販できた」(同)ためだ。

 太陽誘電もSAWフィルターや薄膜圧電共振器(FBAR)などの高周波部品を中心に「16年7―9月期以降も中国・台湾向けで引き続き旺盛な需要がある」(福田智光上席執行役員)と見る。北米スマホ向けは上期全体では弱含み、16年10―12月期以降も不透明感がある。ただ「想定よりも旺盛な中国・台湾向けが(北米の落ち込みを)カバーする」(同)。

 近年、スマホ市場は米アップルと韓国サムスン電子の2強だけでなく、最大市場の中国に依拠する華為技術(ファーウェイ)や小米(シャオミ)、OPPOなどの中国企業が躍進している。京セラの山口悟郎社長も「スマホメーカーの勢力図が変わりつつある」と推測する。アップルによる減産の影響で電子部品各社の業績はやや苦しんだが、中国スマホの需要を取り込むことでカバーしつつある。

原直史
原直史 Hara Naofumi
 スマートフォーンが多機能化、多コンテンツ化すれば、アップルと言えども、コラボレーションが増えてくるのは当然の流れだ。逆に言えば、ここまでよく、少ないコラボで切り抜けてきたと言えるかも知れない。コラボが増えるということは、アップルが独自性を発揮しにくくなったということを意味するだろう。また、利益率の低下も免れないかもしれない。  日本企業が、このコラボのパートナーになることで、ビジネスを獲得する可能性は高くなると思われる。ただ、アイフォーンがその独自性を保つことが難しいと市場でのポジションは弱くなる。パートナー企業はそこを見極めていく必要が出てくるのだろう。

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