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東京都心「街の中小病院」を守れ

国民皆保険を維持するために
東京都心「街の中小病院」を守れ

東京・池袋の副都心

 私の病院は、池袋駅から徒歩5分。戦後間もなく開院してもうすぐ65年になります。今でこそ池袋は、新宿、渋谷と並ぶ三大副都心の一角をなしており、JR東日本、東武、西武、東京メトロが乗り入れる大ターミナル駅を擁しています。

 開院当時の池袋の街は、空襲で多くの建物が破壊され、巣鴨拘置所がポツンと残っていました。ここが後に「サンシャイン60」になるわけです。このサンシャインも竣工してからすでに40年が経過し、2011年3月11日の東日本大地震の際には、大きな揺れが長く続きました。ビル内では立っていることさえままならない状況だったものの、建物自体の損傷はほとんどありませんでした。

 池袋の街は、新築の豊島区役所などの一部の建物を除くと、築30―40年を経たものが数多く見られます。「新しい街を計画したらどうか」といった声があちらこちらから聞こえてきます。

 ただ、都心は、郊外や地方と異なって、簡単には模様替えはできません。企業活動をしながら、建て替えを行っていくための代替地がないのが大きな理由の一つです。

 地方都市の物価の安さを見るにつけて、全国一律の保険医療費というのは、都心の医療法人には大変厳しい現実を突きつけています。中小の商店や、中小企業を潰(つぶ)してしまった都市計画の失敗例であるシャッター商店街のように、今や東京も都心部から街の医療機関がなくなってきており、もう住みやすい街とは言えなくなってきています。

 もちろん、武蔵小山商店街や大山商店街など元気な街も残っていますが、山手線内の多くの街は、人が住みにくくなってきているのも事実です。東京の街を熟知する新しい都知事が誕生したからには、20年の東京五輪・パラリンピックを成功させることはもちろんです。

 併せて、気楽に行ける商店街と同じように、誰でもが行きやすい「街の中小病院」がなくなることのないように願っています。人が住みにくくなった東京中心部を「人に温かい街・東京」に変えていくには、街の病院が果たさなければならない役割は大きいものがあると思っています。
(文=川内章裕・医療法人社団生全会 池袋病院院長) 
日刊工業新聞2016年9月9日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
東京五輪では会場インフラに多く焦点が当たっているが、実は医療体制などソフトインフラ部分も課題は多い。五輪以降を含め都心の医療機関が減ってきている問題はもっと注目される必要がる。

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