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英ディープマインド、機械学習アルゴリズムを医療に応用

目の難病の早期発見や、放射線がん治療の計画支援に
英ディープマインド、機械学習アルゴリズムを医療に応用

頭部がんの放射線治療(グーグル・ディープマインドの資料から)

 人工知能(AI)の「アルファ碁」が3月、世界最強クラスのプロ棋士に圧勝した世紀の対決はまだ記憶に新しいところ。その開発元である英グーグル・ディープマインドが、今度は英国民健康サービス(NHS)が運営する病院と連携して医療分野での機械学習アルゴリズムの応用を進めようとしている。目の難病の早期発見や、がん治療で放射線を組織に照射する範囲の確定に役立てようというもの。専門家の知見や技量に頼るしかない医療分野でのAIの活躍が期待される。

 ディープマインドは7月、欧州最大規模の眼科病院であるロンドンのムーアフィールド眼科病院と協力し、糖尿病性網膜症や加齢黄斑変性症(AMD)といった難病の早期発見につながる機械学習アルゴリズムを開発すると発表した。英国だけで62万5000人、全世界で1億人以上がこの二つの眼病で苦しみ、失明につながる可能性も高いという。それに対し、早期発見による早期治療が実現すれば、失明のリスクを下げることができる。

 通常、眼科医は眼のデジタルスキャン画像を見て診断するが、AMDかどうかは専門家でもわかりにくく、診断に長時間がかかるという。プロジェクトでは、ディープマインドが患者の症状や疾病管理情報を紐付けした100万人の匿名デジタルスキャンデータを病院と共有し、機械学習アルゴリズムに読み込ませることで、スキャン画像から病気を早期発見できるようにする。

 一方、ユニバーシティーカレッジロンドン病院(UCLH)とは、頭頸部がんなどの患者に対する放射線治療の3次元照射範囲の決定に機械学習アルゴリズムを活用する。ディープマインドによれば、これまで最大4時間かかっていた作業を1時間程度に短縮できるかもしれないという。

 頭頸部がんや口腔内のがんでは重要な神経器官と腫瘍が近接している場合がある。そのため、神経器官が損傷しないよう、臨床医は患部付近のどの部位には放射線を当て、どの部位には当てないか、細心の注意を払って放射線照射計画を立てる必要がある。プロジェクトでは、700人におよぶ頭頸部がん患者の匿名でのスキャンデータを機械学習に利用し、臨床医の判断プロセスを学びながら、照射計画を自動化するシステムを開発するという。

 臨床現場への機械学習導入のメリットとして、臨床医がより患者のケアや、教育・研究に時間を割けるようになるうえ、放射線の照射アルゴリズムをほかの部位のがん治療にも適用できるとしている。
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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
IBMの「ワトソン」はニューヨークのスローン・ケタリング記念がんセンターなどと提携し、個別患者に対する病気の診断やがん治療法の選択に使われている。日本でも東京大学医科学研究所に導入されたワトソンが、標準的な抗がん剤治療で効果がみられなかった60代の女性患者の治療に貢献したという事例が8月初めに明らかになった。それまでの「急性骨髄性白血病」ではなく、実は特殊なタイプの白血病であるとの分析結果をわずか10分で示し、治療薬を変えることで女性は回復、退院することができたという。ワトソンは過去の論文などを読み込んで判断を下すのに対し、ディープマインドは画像ベースという大きな違いはあるが、両者とも医療の質の向上を目標に一層の発展が見込まれる。

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