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世界12工場を共通の指標でみる「YKK版IoT」の強さ

「設備総合効率」の数値を見える化。各工場は自主的に目標を設定
 YKKは世界各地のファスナー生産工場の稼働データを集約・蓄積し、活用する「YKK IoTモデル」の構築を進めている。総生産の約8割を占める12の工場で工場全体や生産ライン、設備の稼働データを収集する仕組みを導入。自前で生産設備を開発している強みを生かし、通常のメーカーでは取得が難しいような詳細なデータも集め、製造コストの削減や生産設備の改善・改良、保守部品の安定供給に役立てる。

 YKKの競争力の源泉は「一貫生産」体制への徹底したこだわりにある。生産設備や金型、材料を自前で開発し、日本から世界中に供給することで、どこでも同じ品質で製品・サービスを提供することを可能にしている。

 現在は富山県黒部市を本拠地とする工機技術本部が生産設備などの開発・供給を担い、ファスニング事業とAP(アーキテクチュラル・プロダクツ=建材)事業を支えている。同本部を率いる大谷渡副社長は「従来からの勘と経験にデータ、原理原則を加えて、一貫生産思想を進化させる」とIoTモデルの意義を説明する。

生産整備も内製


 一般的に、生産設備を開発するメーカーが納入先から生産設備の詳細な稼働データを収集するには、機密の壁が立ちはだかる。YKKの場合は生産設備と最終製品を同じ社内で作っているため、必要なデータを得やすい。

 ただ、YKKは工場ごとに独立独歩の気風が強い。これまでも各工場でデータを収集し、分析してきた例はあるものの、データの取り方などに微妙な違いがあり、本質的な課題の抽出が難しかったという。

 そこで新たに共通の指標となる「設備総合効率」を生み出した。「時間稼働率」「性能稼働率」「良品率」を合わせて算出する。「設備の負荷時間の中で、本当に付加価値を生み出している時間を見ることができる」(大谷副社長)。

 基礎となるデータは、生産数量や生産時間をはじめ、設備の停止回数やその要因、加工条件など多岐にわたる。2016年に入って振動や音、画像なども収集して、精度を高めた。

「人が成長しないとIoTモデルは効果を出せない」


 例えば、設備性能に起因するロスは、一時的なトラブルによる「チョコ停」や速度低下などの原因を特定することで減らせる。データ分析や原因の特定は基本的に各工場の役割としている。画一的な改善指示を出すようなことはせず、自主性を尊重する。「人が成長しないとIoTモデルは効果を出せない」(同)とも言える。

 各工場から本社に集めたデータは、工機技術本部が設備の改善・改良に生かす。アジアなど新興国シフトが進む中、オペレーターの経験や技量を踏まえ、拙速に高度化・高速化を進めるのではなく、現地の実情に合った使いやすさを重視する。

 設備総合効率の数値はオープンにし、他の工場を参考にして目標値を設定できるようにした。16年度は全12工場で設備総合効率を前年度比5%向上させる計画だ。これにより、11億円のコストダウンになる計算だ。
(文=斎藤正人)
日刊工業新聞2016年8月29日
八子知礼
八子知礼 Yako Tomonori INDUSTRIAL-X 代表
グローバルワイドにここまで統一した歩みをやり始めているところがYKKのIoTへの取り組みの最大の強みだろう。各工場が権限を持ってバラバラに推進してしまうところに、共通の目標としてKPI(評価指標)を設けて横並びに工場のパフォーマンスを見られるようにしたことが評価できる。これまでにも個別の指標はあったはずだが、属人性を廃して自動で評価できるようにすることで、さらなる自動化やパブオーマンス改善のための可視化を行う原動力にしようとしているのだろう。倣うべき進め方がたくさんある取り組みだ。

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