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「農業」「点検・検査」「空撮」「搬送」 ドローン市場はどこから弾けるか

2020年度に1138億円、“空飛ぶロボット”が産業を大きく変える。
 ドローン(飛行ロボット)の産業分野での活用が広がっている。農薬散布や空撮といった広大な空間での利用が先行していたが、建築や土木分野での検査という新たな用途の開拓も進む。構造物に近接した状況での空中停止や障害物回避といった従来では困難な動作が、周囲の状況を認識したり、機体を制御したりする関連技術の向上で実現のめどがつき、市場の裾野を拡大しつつある。技術の進歩で新境地へ飛び立つドローンの現状を追った。

SLAM技術、建築・土木分野で新たな用途開拓


 構造物の調査・診断工事を手がける三信建材工業(愛知県豊橋市、石田敦則社長)は建築研究所などと組んで、建築物の外壁の劣化状態をドローンで調べる試みを始めた。

 実際に解体前の集合住宅の周りをドローンに巡回させ、搭載するカメラで連続写真を撮って、ひび割れなどのチェックに使えるかを実証している。従来は数日かけて足場を建てたり高所作業車を使ったりして、人が近接目視していた作業だ。これをドローンに置き換えられれば、大幅な省力化になる。

 このカギとなるのがSLAM(自己位置推定・自動地図作成)という技術。周囲にレーザーを発して付近の地形を把握するレーザースキャナーを装備し、自らの位置の推定と地図の作成を自動でする。これで全地球測位システム(GPS)に頼らなくても飛行している場所を確認できる。

 同社はSLAMをもとにドローンの完全自律飛行を目指している社団法人「ミニサーベイヤーコンソーシアム」に参加しており、実証もこのコンソーシアムが開発したドローンを使用している。

 軒裏のような影になる部分を調べるには、建築物の低層部に近づき、空中の特定の場所で停止するホバリングが必要になる。その際、通常のドローンはその位置をGPSで把握する。これで風に流されても、そこに戻るよう調整する。

 だが、低層部だと建築物自体が衛星から届く電波を反射するため、GPSの信頼性が落ちる。それでドローンが位置を見誤り、風で流された時に本来の位置に戻れない問題があった。建築物との相対関係から位置を計るSLAMならば、それを克服できる。

 実証ではGPSとSLAMの比較を実施。GPSを用いた場合は建物の低層部だとホバリング中に、位置がずれていく症状が生じたが、SLAMではホバリングで正しい位置を保持し続けた。

 「GPSで自分の位置を正確にとるにはまだまだ課題がある。非GPS環境で安定して画像を撮るには今のところSLAMがいい」と石田社長は語る。

 とはいえ、SLAMにも弱点はある。周囲の物との相対関係で位置を計るため、周りに何もなければ、位置を見失う。今後、GPSとSLAMを連携させ、さまざまな場所に対応させるのが課題となる。同社は技術の改善を進め、2017年には実用化にこぎつけたいという。

デンソーとヒロボーが試作したドローン)

自動車業界、制御・衝突防止技術でインフラ点検狙う


 建設業界のみならず、自動車業界にもドローン事業への参入をもくろむ企業がある。自動車部品の巨人デンソーだ。車の制御や衝突防止の技術を生かし、「産業用ドローンとして世界最高の性能」(加藤直也Robotics開発室長)を発揮させ、橋梁などのインフラ点検の市場を開拓する。

 ラジコンヘリコプターなどを生産するヒロボー(広島県府中市)と共同開発する。同社の機体に、デンソーの制御ノウハウをあわせて、高い運動性能を発揮させる。

 その中核となる技術が産業用ドローンに導入するのは世界初という羽根の角度を変えられる可変ピッチ機構。上昇力だけでなく、下降力も変えられるようになり、構造物に最短60センチメートルまでの近接を可能にする。定めた位置や姿勢を維持しやすく、強風を受けた際に元の位置や姿勢に復帰する時間も短くなる。

 もうひとつのポイントがレーザーレーダー(LIDAR)の導入だ。自動車が前方の車両や人を検知するのにも使うこの技術を飛行用に改良し、橋の下などを飛ぶ場合に障害物を避ける機能をドローンに持たせる。

 これにより強風下でも安定して運転でき、衝突も回避する高性能を実現させる考えだ。今後、老朽化した橋梁などで実証を進め、18年ごろまでの事業化を目指している。


 ドローン市場規模は拡大の一途をたどる。インプレス(東京都千代田区)がまとめた「ドローンビジネス調査報告書2016」によると、国内のドローン市場規模は15年度104億円、16年度199億円、18年度578億円、20年度1138億円に成長していく見通しだ。

 内訳はドローンの「機体」、ドローンを使った「サービス」、蓄電池や人材育成、任意保険などの「周辺サービス」で、最も伸びると予想するのがサービス分野だ。

 ドローンの専門家による分類では、ドローンを使った「サービス」の大まかな分類は、「農業」「点検・検査」「空撮」「搬送」の四つ。農業はすでに、農薬散布でヘリコプター型が活躍しているが、今後農地の調査・分析や作物の成育度などのモニタリングなどより高度な農業技術への貢献が見込まれる。

 点検・検査も各社の参入が相次ぐ。橋やトンネルなど構造物の老朽化が進む一方、点検・検査の技術者は足らず、ドローンによる作業負担の軽減や時間の短縮が必須だ。

 搬送は可搬重量や安定性、確実な運行監視など技術的な課題が多いが、最も市場が伸びる分野。離島や山間部など、輸送コストがかかる土地への活用が期待される。
(文=石橋弘彰、名古屋・江刈内雅史)

ファシリテーターの八子知礼氏の見方


 空飛ぶロボット、ドローン市場が2020年に到達する市場規模は、5年前のクラウド市場ほどの規模感。その後の広がりを考慮すると急成長にさらなる拍車がかかることは容易に想像できる。

 かねてよりIoTはモノに着目するのではなく、ヒトに着目すべきだと提唱してきた。ドローンに関しても例外ではなくこれまで人が行ってきた業務に十分な人材リソースが割り当てられなくなる懸念が存在する領域での活用が想定されている。
日刊工業新聞2016年8月19日
八子知礼
八子知礼 Yako Tomonori INDUSTRIAL-X 代表
 記事にある施設や設備点検や農薬散布などだ。スマホ、自動運転、ロボットなどで実装されるものは全て空に飛ばせると考えてよく、残る課題は決して落ちない安全性の担保だろう。現状のドローンでは安定的に信頼感高く運用できるレベルにないものも多く、様々なセンサー制御による安定性の向上をトップベンダーがしのぎを削って開発している状況だ。スマフォで我々の生活が激変したように、ドローンの応用によって空から我々の産業が大きく変わる可能性が幅広く期待されている。

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