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熊本地震から4カ月、復旧から復興へ。地域産業、補助金や「ふっこう割」で盛り返し

熊本地震から4カ月、復旧から復興へ。地域産業、補助金や「ふっこう割」で盛り返し

熊本県民の誇りである熊本城の復旧も急ぐ。震災に耐えた「一本石垣」は応急工事に着手

 熊本地震から4カ月が過ぎ、被災地を中心に九州では復興へ向けた取り組みが進む。熊本県では補助金の活用に関する動きが活発で、事業展開に積極的な企業が出てきた。九州一円に風評被害が広がった観光業界では旅行費用への助成をテコにした集客に効果が出ている。

立ち直る中小/再建・回帰・増設進む


 熊本県内の産業界では「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業(グループ補助金)」に対する取り組みが活発だ。小野泰輔熊本県副知事は復興のカギを「熊本を長期にわたって支援する流れや意識を絶やさないこと」と指摘する。

 熊本県によるとグループ補助金の1次募集では113グループ1742件の中小企業や小規模事業者が応募した。奧薗惣幸商工観光労働部長は「立ち直ろうとする意欲やニーズが明確に現れている」と手応えを感じる。

 グループ補助金の救済対象をどこまで拡大するか。これは誘致企業の流出を防ぐことにも大きく関わる。熊本県工業連合会は「(実質的に大企業傘下にある)“みなし大企業”は地場企業との取引が多くビジネスに直結する。今後、誘致企業も支援の必要がある」(小野上典明事務局長)とする。

 熊本県は8日、グループ補助金の2次募集を発表し、新たに“みなし大企業”などを対象とした。申請書類の簡素化も図る。公募要領は29日にも公表する。奧薗部長は「生産や取引を元に戻すには、付加価値を付けるといった高いハードルに向けた努力が必要」と指摘する。

 企業も事業活動を加速する。平田機工は創業の地である熊本に本社を移した。「真の熊本企業として熊本県民とともに苦難を乗り越えたい」(平田雄一郎社長)と強調する。熊本大学と包括的連携協定を結び、「異分野の連携による新産業創出に取り組む」(同)という。


<創業地・熊本に本社を戻した平田機工>

 堀場エステック(京都市南区)も熊本県西原村にある工場の大幅な増設を発表した。経営コンサルタント大手のビジネスブレイン太田昭和は熊本県内への本社機能の移転を進めている。

 自治体も復興を急ぐ。熊本市は9月末をめどとする震災復興計画策定の準備を進める。計画の重点プロジェクトの一つでは、熊本城の復旧過程の公開を観光資源とする方針。熊本城は現在、「飯田丸五階櫓(やぐら)」の復旧工事が進む。市の担当者は「年内をめどに基本方針を定め、2017年度までに『熊本城復旧基本計画』を策定する」という。

九州観光、にぎわい戻る/リピーター・団体集客カギ


 熊本地震は九州全体の観光産業に大きな影響を及ぼした。宿泊キャンセルが70万人を超えるなど風評被害が広がったが、復興へ向かう動きは着実だ。観光復活の一つの目安となるインバウンド(訪日外国人)に変化が表れた。九州運輸局がまとめた外国人入国者の推移によると6月に空港から九州入りした人数は前年同月比10・8%増とプラスに転じた。

 九州観光の復活の起爆剤とされるのが旅行費用を助成する「九州ふっこう割」だ。7―9月の熊本・大分の商品割引率は最大70%。7月1日の発売直後から予約が殺到。その一つ「九州ふっこう割 熊本宿泊券」の21万枚は7月20日に発売し、22日に完売した。九州観光推進機構は「ふっこう割をリピーターにつなげたい」と意気込み、会員制交流サイト(SNS)を使った情報発信を始めた。

 大分県の温泉地、別府・由布院は今、観光客でにぎわう。地震直後は閑散としていた土産物店には売り子の威勢のよい声が響き、活気が戻った。別府市観光協会(大分県別府市)をはじめ観光団体は口をそろえて「ふっこう割のおかげ」と喜ぶ。


<8月に入り観光客でにぎわう大分・湯布院温泉の名所、金鱗湖>

稼働率100%


 別府市旅館ホテル組合連合会(同)によると、7、8月の同市の旅館・ホテル稼働率は100%に近く「集客力のある大手から客室が埋まる」という。宿によっては予約できないケースもあるほどだ。

 由布院や熊本県境の日田市なども個人客が多く、レンタカー利用者が増えた。由布院では大型バスを利用した韓国からの団体客が目立つようになった。ただ例年には及ばず、団体客回復が今後のポイントになりそうだ。

 10月は、ふっこう割第2弾が発売される。温泉地が本領を発揮する「秋冬シーズンにつなげたい」と大分県の担当者は策を練る。ふっこう割終了後の17年も見据え、別府市旅館ホテル組合連合会は「新規客を取り込み、リピーターを増やすことが肝心」としている。

大型クルーズ船、八代港に相次ぐ/1隻で4000人超す来訪


 熊本県南部の八代港(熊本県八代市)では海外からの大型クルーズ船の入港が7月に再開した。松木喜一八代商工会議所会頭は「四千数百人の乗客が観光バスに分乗して県内を観光した」と喜ぶ。7月には3回の入港があり、29日にも入港が予定されている。


<大型クルーズ船の来港が続き活気を取り戻した八代港>

 熊本県の観光課は「天草や人吉のホテル、旅館ではお客さまが戻りつつある」という。人吉旅館(同人吉市)は「8月までは宿泊予約はいっぱい。9―12月は第2弾のふっこう割がある。しかしその後、どう継続していくかが課題」と先を見つめる。
(文=熊本・勝谷聡、大分・広木竜彦、西部・増重直樹)
日刊工業新聞2016年8月18日 中小企業・地域経済面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
自治体はこれまで企業誘致において、地震の少なさをアピールしてきただけに、今後どのように企業に対して立地を訴えかけていくのかが重要です。「復興支援のために」と手を挙げる企業も出てくるでしょうが、そこだけに頼らない誘致活動が長期的な利益を生むと思います。インフラの復旧や強靱化とあわせて、地理的立地の優位性を改めて周知していくべきでしょう。

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