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“劇薬FIT”が効かなくなった太陽光市場。外資勢に見る生き残りのヒント

日本に根をはらないと撤退が相次ぐ可能性も
“劇薬FIT”が効かなくなった太陽光市場。外資勢に見る生き残りのヒント

トリナ・ソーラーのパネルが採用される日本最大のメガソーラー(岡山県瀬戸内市)の完成予想図

 電力会社に太陽光や風力といった再生可能エネルギーで発電した電力の全量買い取りを義務付けた「固定価格買い取り制度(FIT)」が5年目に入った。政府がFITの買い取り価格や制度設計を見直しており、一気に膨らんだ太陽光発電の市場は今後、縮小に向かう。日本に次々に参入した海外勢も、厳しい競争にさらされる。海外市場で需要の激しい浮き沈みを経験してきた海外勢の戦い方から、今後の日本市場の動向も見えてくる。

メガソーラー需要にブレーキ


 「“劇薬”と言われた通りだった」。世界大手のカナディアン・ソーラー(カナダ)の日本法人、カナディアン・ソーラー・ジャパン(東京都新宿区)の山本豊社長は、FIT開始からの4年をこう振り返る。太陽光発電の市場を立ち上げたFITの効用は絶大だった。しかし、効き目が薄れると「企業の競争が熾烈(しれつ)になる」と強い副作用も感じている。

 太陽光発電協会によると2015年度の国内出荷量は前年度比22・6%減の713万キロワット。14年度をピークに減少へ転じた。ソーラーブームに火を付けた大規模太陽光発電所(メガソーラー)の需要にブレーキがかかったためだ。

 FITが始まった12年、山本氏は中国サンテックパワーの日本法人トップだった。当時、世界最大だったサンテックは、拡大路線が裏目に出て経営破綻。山本氏は15年末にカナディアン・ソーラーに転じた。日本にしっかりとした事業基盤を根付かせようと、住宅用太陽電池パネル市場の開拓に力を注ぐ。

「ZEHは縮小した市場に差し込んだ光」


 消費エネルギーを作ったエネルギーで相殺するゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)を20年に標準化する国の方針があり、住宅用太陽電池パネルの搭載が必須となるからだ。「ZEHは縮小した市場に差し込んだ光」(山本豊カナディアン・ソーラー・ジャパン社長)だ。

 だが、外資にとって住宅市場の開拓は容易ではない。パナソニック三菱電機など日本勢が工務店や住宅メーカーを押さえており、外資が食い込めていないのが実情だ。

 カナディアン・ソーラーの15年の日本での販売実績は80万キロワット。そのうち住宅用は1割にとどまる。外資トップ級の同社でも、住宅用のシェアは1ケタ台だ。そこで日本勢の牙城を切り崩そうと、新しい価格戦略を打ち出した。

 搭載できる太陽電池パネルの枚数から全体の出力が分かると、価格が決まる太陽光発電システムを発売。架台など周辺機器の選定後でも価格は同じだ。「普通なら太陽光発電の見積もりは、家全体の設計や予算が固まった後。新価格は、早い段階から商談ができる」(同)と手応えを話す。

 メガソーラーが退潮する理由は、FITの買い取り価格の下落だ。発電した電気を電力会社に売電する価格は、1キロワット時当たり24円(消費税抜き、10キロワット以上)。ピーク時から約4割下がった。発電事業者はもうけが少なくなり、投資意欲が冷え込んだ。

工期長く「世界一のコスト」


 しかし、米大手のファースト・ソーラーの笠松純・日本事業責任者は「工夫次第でメガソーラーの総コストを圧縮できれば買い取り価格が下がっても発電事業者は利益を確保できる」と自信をみせる。

 日本のメガソーラーが「世界一のコスト」と言われる要因として、工期の長さが指摘されている。ファースト・ソーラーは太陽電池メーカーでありながら、メガソーラーの建設事業を全世界で展開する。工期を短くできる部材を世界中から調達して、工費を削減できるという。

 もう一つ、太陽電池パネルの性能向上でもコストを下げる。同社はテルル化カドミウムを原料とする化合物系太陽電池を製造する。普及するシリコン系よりも生産コストは安いが、変換効率が低い弱点があった。それが技術革新によって、多結晶シリコン系と同等の16%台まで向上させた。20年頃には、単結晶に匹敵する20%の効率の製品を量産できると見通す。

 効率が高ければ、パネル1枚の発電量が多くなるのでパネルの設置枚数を減らせ、メガソーラーの建設費を削減できる。「買い取り価格が20円でも、我々の製品を使えばメガソーラー事業ができるようにしたい」(笠松純ファースト・ソーラー・ジャパン日本事業責任者)と意気込む。

“太陽電池版IoT”で効率化


 世界大手の中国トリナ・ソーラーも日本事業を急速に拡大している。岡山県内で建設中の出力が23万キロワットと日本最大のメガソーラーに11万キロワットのパネルを供給する。他にも大規模プロジェクトから次々に受注を獲得する。

 新たな提案も始めている。同社日本法人、トリナ・ソーラー・ジャパンの陳曄社長が「知能を持った太陽光パネル」と表現するのが、「トリナスマート」だ。パネル1枚1枚を監視して不具合のあるパネルを発見し、素早く交換や修理ができる。通常は10枚以上をまとめて監視するため、発電所に異常があっても原因のパネルを突き止めるまでに時間がかかる。

 “太陽電池版IoT(モノのインターネット)”と言えるトリナスマートなら、「故障で発電が停止する時間を短くでき、売電収入の減少を最小にできる」(陳曄トリナ・ソーラー・ジャパン社長)と胸を張る。

 太陽光発電協会によると海外メーカーの日本でのシェアは33%。海外メーカーから供給を受ける日本メーカーもあり、総出荷量の53%が海外製だ。海外メーカーは日本市場で一定のポジションを築いたが、今後の市場縮小局面では日本での生き残り策が問われる。
(文=松木喬)
日刊工業新聞2016年8月12日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
買い取り制度開始直後の12年ごろ、外資は安さが最大の売りでした(「安いから外国製にした」と言っていた発電事業者がいました)。性能で日本製に勝るメーカーも価格で見られていました。太陽光パネルを持って来れば売れた時代は終わりました。カナディアンは価格戦略以外に、蓄電池との組み合わせなどシステム提案も工夫しています。ハンファQセルズはリフォーム需要を掘り起こそうとコメリでの販売を始めました。「性能・品質がよく、信頼性が高い」とだけ言い続ける外資メーカーがありますが、日本に根をはらないと撤退が相次ぐのではないでしょうか。

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