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国際金融市場「8月危機説」は本当か

市場に潜む5つのリスクを検証する
 経験則として8月には国際金融市場に危機が起こる確率が高いようだ。1971年8月のニクソンショックでは、米ドルが金との兌換(だかん)を一時停止した。戦後ブレトンウッズ体制が終焉(しゅうえん)し、新しい通貨制度の幕開けとなった。

 その他、過去20年を振り返ると、1998年8月にはロシア国債がデフォルトするロシア危機が起こり、マーケットは一斉に安全資産へ逃避し、流動性の低い債券が売り浴びせられ、大手ヘッジファンドLTCMが破たんの危機に見舞われた。

 また、07年8月にはサブプライムショックが起こり、その翌年のリーマンショックへの導線となった。11年8月にはユーロ危機、15年8月には人民元切り下げで相場が急落した。今年の8月にもショックの予兆が感じられる。その五つのリスク要因に言及したい。

 まず、予想外の英国の欧州連合(EU)離脱を受けて、7月には米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを先送り、日銀も緩やかな緩和策を実施した。今、英国中央銀行がどの程度の利下げと緩和策を実施するかが注目される。日銀のようにマーケットの期待値に沿わない程度の緩和策であれば、失望感から相場を押し下げる要因となりそうだ。

 第2に、マーケットにあふれたマネーがベンチャー熱に浮かされテク・バブルが起こっている。中国版ウーバーは滴滴出行に売却されたが両社合わせた企業価値は350億ドルと莫大(ばくだい)である。

 90年代後半のドットコム・バブルを思い起こさせる。日本でもフィンテック・バブルの最中だが、この手の技術革新はスピードが速く、生き残るベンチャー企業はわずかである。さらにマーケットが神経質になると資金繰りが難しくなり、ITバブル崩壊のときもほとんどの企業が一掃された。

 第3に、トランプ要因がある。彼の掲げる「アメリカ第一主義」は、まるで戦時下の保護主義、孤立主義であり、世界の経済成長の妨げとなる。

 戦後70年を経て「戦後レジーム」が終焉し、世界を大戦直後の状態に引き戻すとなれば、朝鮮動乱の休戦状態も終わる。北朝鮮の挑発行為に見られるように、トランプ新大統領のもと米国が世界の経済と秩序の牽引役から降りれば、日中を含むアジア地域は一気に不安定化するだろう。

 第4に、中国要因がある。昨年8月の相場の急激な下げも人民元切り下げから始まった。上海総合指数は1年前の4000から3000まで下げており、さらに株価が下落すれば、再び人民元の切り下げと利下げを実施する可能性がある。

 第5に、原油価格がある。バレル当たり30ドルを再び割り込むかどうか。

 この夏、リオ五輪が無事行われるよう願うばかりである。
(文=大井幸子・国際金融アナリスト兼SAIL社長)
日刊工業新聞2016年8月5日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
8月がどうか分からないが5つの潜在的なリスクがあるのは確かだろう。一方でその5つに関してはそれを回避、あるいは反対の動きもある。この前、大井さんがコラムで書かれていたが、テロ多発時代において世界の政治指導者が、歴史を教訓にした経済政策を打ち出せるか。

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