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老朽原発の運転期間延長でも電力会社は安心できず

関電・美浜3号機、新規制基準に合格。国が方針示しリプレイス投資を
 原子力規制委員会は3日、関西電力美浜原子力発電所(福井県美浜町)3号機(出力82・6万キロワット)について、安全対策の基本方針が妥当であるとして、原子炉設置変更許可申請の審査書案を了承した。国の安全基準である「新規制基準」の適合性を確認したとする事実上の合格証となる。稼働から40年を超えた老朽原発の新規制基準合格は高浜原発1、2号機(福井県高浜町)に続き2例目。20年の運転期間延長を目指す。

 規制委は1カ月間、審査書案への意見を募った後、正式に許可する見通し。美浜3号機は、原子炉等規制法で定めた40年の運転期間が終了する11月30日までに、工事計画と運転期間延長の認可を得ないと廃炉になる。

 関電は同日、審査書案の了承を受けて「今後も審査に真摯(しんし)かつ迅速、的確に対応していく」とコメント。あらためて期限内の審査完了と早期の再稼働に意欲を示した。

 美浜3号機は適合性審査中の2015年8月、想定される最大規模の地震の揺れ(基準地震動)を大幅に引き上げた。このため当初計画に比べて、安全対策に大規模な追加工事が必要になっている。提出した工事計画では20年3月の完成予定で対策費用は1650億円を見込む。

 関電にとって美浜3号機の再稼働は最重要課題の一つ。月50億円の燃料コスト軽減に加え、同社の原子力の象徴的な意味も持つ。美浜原発は国内の商業用加圧水型軽水炉(PWR)発祥の地。1、2号機の廃炉に着手した今、美浜町内に運転が見込めるのは3号機のみ。過去にはリプレース(建て替え)に向けた調査も実施しており、原子力継続のカギを握る最重要プラントと位置づける。
日刊工業新聞2016年8月4日
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
関電にとって美浜3号機の「新規制基準」合格による運転延長は、現状からの大幅な燃料コスト軽減に寄与し、その先のリプレースも考慮すれば、早く再稼働し原子力事業を軌道にのせたいところだ。温室効果ガス排出削減の観点から国が決めた“2030年に原子力による発電を電源構成比20~22%にする”ためには、他の電力会社も同様に40年稼働した後の原発を更に延長させたい。課題はその先にある。2050年に向けて環境省は温室効果ガス排出80%削減を標榜し、再生可能エネルギーを電源構成比70%まで高めて達成しようとしている。国は、温室効果ガス排出削減に最も寄与し極めて安定した供給電源である原発に関して如何なる“解”を示すのか。40年を60年稼働に延長しても、国が原子力発電に関する方針を示さなければ、電力会社としてはリプレースに投資できる環境ではなかろう。

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