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ニッポンの車載電池はこれから化学・材料メーカーがけん引する

日産が車載電池から撤退報道
ニッポンの車載電池はこれから化学・材料メーカーがけん引する

ゴーン社長、右上はトヨタの新型プリウス用リチウムイオン電池、右下は車載用セパレーター

*住友化学、絶縁材の増産計画を上積み

日刊工業新聞2016年8月4日


 住友化学の十倉雅和社長は3日、日刊工業新聞社の取材に対して、リチウムイオン二次電池(LIB)用セパレーター(絶縁材)の生産能力増強計画を従来より上積みする方針を明らかにした。十倉社長は「(2018年度までの)中期経営計画で考えていた増強のペースでは間に合わない。増強計画を見直している」と語った。製品を供給する米テスラ・モーターズの電気自動車(EV)販売が好調なためと見られる。

 住友化学は大江工場(愛媛県新居浜市)と韓国・大邱に建設中の新工場を軸とした増産計画を上方修正する方向で調整中。十倉社長は「増強の幅は従来を上回る大きな投資になる」と説明した。

 大江工場の年産能力は1億4000万平方メートル。韓国新工場の年産能力は当初7000万平方メートルの予定だった。また、新工場の稼働時期も従来計画の17年量産開始から前倒しする方針だ。テスラにLIBを供給しているパナソニックが米国・ネバダ州で建設している工場の量産時期を前倒しするため、住友化学も供給体制を早期に整える必要がある模様。

クレハ、車載電池材を5割増強


日刊工業新聞2016年7月27日


 クレハは2018年度までに、電気自動車(EV)などに使われるリチウムイオン二次電池(LIB)用バインダー(接着剤)の生産能力を現状比約5割増強する。いわき事業所(福島県いわき市)にポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)の生産ラインを新設。既存設備の改良による生産効率の向上と併せて、車載・民生用LIBへの供給体制を盤石にする。投資額は60億―70億円となる見通し。

 16、17年度にいわきの既存設備を改良し、18年度に新設備を導入。主に車載用LIBのバインダー用途を見込み、特殊品の生産能力を高める。一方、いわきと中国で現在生産しているバルブや継ぎ手向けの汎用PVDFは、16年度中に中国・常熟市の生産子会社に集約。18年度にフル稼働に当たる年産5000トンを目指す。

 中国での需要拡大を受け、海外で初めてとなる「技術センター」を開設する検討も始めた。電池メーカーごとに異なる正極・負極向け活物質とバインダーの組み合わせを提案し、電池メーカーが求める性能を引き出す。将来はポリマーの応用から、実際に電池に採用した場合の評価までを手がける拠点にする考えだ。

 特にEV向けは環境規制の厳格化などを追い風に需要が増大。中国では地方政府の後押しもあり、EVのタクシーや路線バスが普及した。クレハも好調な大型LIB用のPVDFをもう一段伸ばす。例えば、バス用LIBは大きさが乗用車用の約10倍になり一層の需要増が期待できる。

 クレハは18年度に売上高1700億円(15年度は1425億円)、営業利益160億円(同126億円)を目指す3カ年の中期経営計画を進行中。PVDFのほか、自動車部品などに用いるポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)の増産を計画する。PVDFなど機能製品事業の売上高目標は550億円(同365億円)。

(EV向け二次電池用の高機能PVDF)

ダブル・スコープ、塗工能力5倍に


日刊工業新聞2016年7月15日


 ダブル・スコープは2017年末までにリチウムイオン二次電池用セパレーター(絶縁材)のコーティング(塗工)能力を、現状比5倍の月産1000万平方メートルに増強する。投資額は約40億円の見込み。電気自動車(EV)など車載用途に加えて掃除機や電動自転車などの家庭用品への電池搭載が拡大する中、安全性を向上したい顧客のニーズに高付加価値品で迅速に対応する方針だ。

 ダブル・スコープは湿式セパレーターを生産する韓国の既存工場にコーティング装置を増設する。中国のEV向けが好調なほか、日本や韓国において家電などの民生用途や電動工具などの産業用途でコーティング製品の引き合いが強いため。

 ポリオレフィン製の多孔膜にセラミックス加工することで、耐熱性などを一段と高めてリチウムイオン二次電池の異常発熱を防げる。電池の高密度化や大容量化に伴い事故リスクは必然的に高まるため、セラミックスコーティングが現行技術では安全性確保に不可欠だという。

 リチウムイオン二次電池の製造原価に占めるセパレーターの割合は現状15%程度だが、20年には17%超へ拡大する見通し。高付加価値なコーティング製品の採用拡大が主な要因となる。

 ダブル・スコープは05年設立のセパレーター専業メーカー。素材大手と比べて意思決定の速さや機動性を強みに設備投資を積極的に行い、中国市場へもいち早く進出したという。16年12月期は売上高が前期比34%増の100億円、営業利益が同36%増の26億円を予想する。現在、韓国でセパレーターの生産能力を増強しており、18年に15年末比約3倍の年3億平方メートル以上になると見られる。

旭化成、絶縁材の生産能力2倍に


日刊工業新聞2016年5月26日


 旭化成は25日、2020年までにリチウムイオン二次電池用セパレーター(絶縁材、写真)の生産能力を湿式・乾式合計で現状比2倍の年11億平方メートルに拡大すると発表した。総投資額は210億―260億円を予定。同電池はスマートフォン中心の民生用途が順調に伸びるほか、今後は電気自動車など車載用途が急拡大する。世界首位として、市場拡大に合わせた供給体制を整備する。

 同社は増産の第1弾として、守山製造所(滋賀県守山市)に建屋を新設して、湿式セパレーターの生産能力全体を同17%増の年4億1000万平方メートルに拡大する。投資額は約60億円。18年上期に商業運転を始める計画。

 湿式は守山と宮崎県日向市の生産拠点で、乾式は米国と韓国で製造している。現状の乾式の生産能力は年2億平方メートル。今後の増産投資は時期や拠点、増強規模などの詳細を詰める。

 同電池市場は今後、車載を中心に急成長する見通し。電気自動車(EV)ベンチャーの米テスラ・モーターズが好調なほか、中国でも政府がバスなどでEV化を推進している。

インドに鉛蓄電池用絶縁材の新工場


日刊工業新聞2016年6月27日


 旭化成はインドに鉛蓄電池用絶縁材(セパレーター)工場を新設する。投資額は約20億円。同国内は自動車産業の集積が進み、車載用途の電池部材需要が急拡大している。また、不安定な電力事情を背景に、停電に備えた定置用途も増加中だ。アイドリングストップ車の普及などで世界の鉛蓄電池市場は堅調であり、現地生産で顧客対応を強化する。

 旭化成傘下の米ダラミック(ノースカロライナ州)が現在、インド・グジャラート州に鉛蓄電池用セパレーター材料のポリエチレンシートを製造する工場を建設している。2016年内に完工し、17年半ばに商業運転を始める予定。当初は1ラインで始動し、今後の需要拡大に応じて増設を検討する。

 新工場の生産能力は明らかにしていない。ただ、リチウムイオン二次電池用セパレーターの場合は同規模の投資額で年産1000万―2000万平方メートルになることが多い。

 インドではこれまで欧米拠点から輸入したシートを、顧客の要求に従って切断する後加工の工場しか持っていなかった。鉛蓄電池メーカーのインド進出が加速しており、今回前工程からの一貫生産を決断した。前工程の工場は現在、米国と欧州、タイ、中国に有している。

 旭化成は鉛蓄電池用セパレーター世界最大手で、50%以上のシェアを持つという。14年の売上高は3億2000万ドル(約340億円)で、車載向けが全体の8割を占める。旭化成が15年に買収した電池用セパレーター世界大手のポリポア(ノースカロライナ州)の鉛蓄電池部門だ。

(鉛蓄電池用セパレーター)

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
一部報道で日産が車載電池事業を売却する意向という。特にサプライズはない。自社のEV用を外部調達に切り替えるなど昨年からそのような兆しが顕在化していた。日産はカルソニックカンセイの株式売却など競争力の源泉を再構築している。車載電池のセットがコモディティー化する一方、日系の材料関係メーカーの動きは活溌。今年に入ってからの主要記事だけでもこれだけある。ディスプレーにおける材料、スマホにおける電子部品などと同じ流れだろう。

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