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「情報通信白書」33兆円GDPを押し上げる?経営者のIoT理解が低すぎる

次世代型のビジネスモデル作りできず。このままでは海外勢と差が開くばかり
 総務省がまとめた2016年版の情報通信白書では、IoT(モノのインターネット)など情報通信技術(ICT)投資の進展により、2020年度時点で実質国内総生産(GDP)を約33兆円押し上げると分析している。ただ、企業のIoTの導入意向は米国などに比べて低く、このままでは諸外国に乗り遅れると警笛を鳴らした。人工知能(AI)についても就業者による活用意識の希薄さを浮き彫りにした。

 白書はIoTやAI、ビッグデータ(大量データ)の活用で企業の生産性などが高まると分析し、20年度時点で実質GDPは590兆円に上ると推計。足元の潜在成長率並みで推移した場合の557兆円を大きく上回る。

 またICTの進展による消費者のメリットも指摘。ICTの特徴であるデジタル化は複製コストをほぼ無料化する。音楽配信や電子書籍などを例に、消費者は支払う価格以上のサービスが受けられるなどとした。

 一方、20年までにIoTを導入するか企業に調査すると、米国や英国など海外5カ国の企業は新サービス・商品の開発や業務効率化などを目的に80%前後が導入意向を示した。これに対し日本は40%程度にとどまり、白書は「他国と差が開く恐れがある」と警告した。

 また、AIを職場に導入すると業務効率化などの効果が期待されるが、白書ではAI活用に関する就労者の意識の低さも浮き彫りにした。AIの普及に向けた今後の対応や準備の意向を就労者に聞くと、「特に何も行わない」が51・2%で過半を超えた。米国の22・8%を大きく上回る。AI活用のために習得したい知識や技能を聞いても、日本は38・5%が「ない」と答えた。

 このため白書では「AI活用に向けた姿勢を学ぶことやAIに対する苦手意識を取り除くことが重要」と指摘。その上で「IoT時代に向けて企業や就労者が人材育成などに取り組む必要がある」と強調した。

ファシリテーター・八子知礼氏の見方


 33兆円の市場創出がイメージできるかどうかはさておき、IoT以前に日本の経営者はIT活用によるプロセス標準化や新事業創出についてそもそも理解が低すぎる。ITは分からないから遠ざけてきたことが、ここにきて明確に裏目に出ており、ITとOT(Operational Technology, 現場の操業技術)の融合を図りデジタルなシミュレーション環境とリアルな現場の実態を"つなぐ"、IoTを用いた次世代型のビジネスモデルづくりがどれほど重要であるかが認識できず、白書が言及するような海外との意識乖離が大きくなっているわけだ。
日刊工業新聞2016年8月2日
八子知礼
八子知礼 Yako Tomonori INDUSTRIAL-X 代表
多くの企業は「またIT業界が何か仕掛けてきて、、」とか「かつて取り組んだのと似てるからな」と様子見傾向を続けているが、IoTへの取り組みによって集まったデータ活用が次の主戦場であることが見えている都合上、見えなかったデータがIoT活用で見える化して蓄積されていないのはビジネス展開の命取りになりかねない。様子見だとか、ITは分からないとか言っている悠長な場合じゃない。もはや"がむしゃらに"取り組むことが必要とされているのだ。

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