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原油価格の低迷で苦しむ荏原。次の経営計画で“サービス会社”へ構造転換できるか

前田社長に聞く「(売上高)5000億円はグローバル視点での最低ライン」
原油価格の低迷で苦しむ荏原。次の経営計画で“サービス会社”へ構造転換できるか

インドにあるコンプレッサー・タービンのサービス拠点

 荏原は原油価格の低迷など厳しい事業環境の中で、現中期経営計画の仕上げの年を迎えた。石油・ガスなどエネルギープラントの中核設備であるコンプレッサー・タービン事業などで苦戦し、計画は未達に終わる公算が大きい。その半面、半導体製造装置事業では、かつてない利益水準を確保する見通しで、事業間の明暗が鮮明となった。この3年間を踏まえ、次期中計の事業戦略をどう描くのか。前田東一社長に聞いた。

 ―足元の事業環境をどう見ていますか。
 「今期は売上高4800億円を見込み、中計の5350億円には届かなそうだ。コンプレッサー・タービン事業で、油価下落による顧客の投資判断の遅れが大きな要因。足元で油価は多少落ち着いており、同事業も今期は多少動くだろう。出てきた案件をしっかり取り切れるかが重要だ」
 
 ―次期中計の考え方は。
 「今期見通しである5000億円弱の売り上げ規模では、この先は生き残っていけないという危機感がある。5000億円はグローバルで考えたときの最低ライン。次期中計では原油安など外部環境の影響を受けにくい事業構造への転換に軸足を置く。製品の性能・コスト・納期で優位性を確保しつつ、収益性の高いサービス&サポート(S&S)事業の強化がカギを握る」

 ―S&S事業の状況は。
 「昨年度のS&Sの売上高比率は4割で着地。ここ数年、営業利益で安定的に300億円規模を確保できるのも同事業の伸長が大きい。自社で納入した各設備が稼働し続ける限り、S&S事業の需要は安定的に発生する」

 「ポンプのS&Sは拠点設立やM&A(合併・買収)を実施し、インドネシア、ブラジル、ミャンマー、コロンビアなどで体制を整えた。今期以降は中央アジアやインドなどを攻略地域に据える」

 ―半導体製造装置事業は想定以上の伸びをみせています。
 「半導体市場は今期も堅調に推移すると考える。主力製品であるCMP(化学機械研磨)装置はさらに伸びが期待できる。営業利益面ではコンプレッサー・タービン事業などの落ち込みを、半導体関連事業が補った格好。熊本工場(熊本県南関町)の増設などで固定費は重くなるが、同事業がけん引役になるのは間違いない」

 ―今後の研究開発の方向性は。
 「IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)といった次世代技術に期待している。ゴミ焼却プラントの遠隔監視サービス、コンプレッサー・タービンなど回転機械やポンプでは、稼働データを収集・解析し、予防保全につなげる新サービス創出などを想定している」

【記者の目・筋肉質な事業基盤構築を】
 現中計はエンジニアリング事業や精密・電子事業で、売上高・営業利益とも当初目標を上回る見通し。売上高の7割弱を占める風水力事業の低迷に苦しんだ3年間となった。資源開発向けの投資回復時期は不透明だが、エネルギー需要は確実に増える。回復局面までに生産性向上やアフターサービス強化など、筋肉質な事業基盤の構築が中長期の成長を左右しそうだ。
(聞き手=長塚崇寛)
日刊工業新聞2016年7月26日
長塚崇寛
長塚崇寛 Nagatsuka Takahiro 編集局ニュースセンター デスク
原油安に伴う資源・エネルギー開発の停滞で、主力のコンプレッサー・タービン事業で苦戦した荏原。その中でも、次代の利益基盤となるポンプやコンプレッサー・タービンのアフターサービス拡大を加速している。15年度はブラジルのポンプメーカーやインドネシアでポンプのメンテナンス会社を相次いで買収。来期からの次期中計でもM&A戦略は継続すると見られる

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