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2055年に売上高10兆円を夢見る大和ハウスの「過去」「現在」「未来」

なぜ強いのか?「真っ先に役職者のやる気を挙げたい」(樋口会長)
2055年に売上高10兆円を夢見る大和ハウスの「過去」「現在」「未来」

「できれば20年前倒しで達成したい」と樋口会長

大和ハウス工業は2016年3月期に、売上高3兆円を超えた。大型のM&A(合併・買収)を通じてハウスメーカー、不動産、ゼネコンとさまざまな顔を持つ企業集団に拡大している。そして夢は創業100周年の2055年に売上高10兆円。大和ハウスのDNAはどこから来ているのか。日刊工業新聞社では2013年12月に会長兼最高経営責任者(CEO)である樋口武男氏のロングインタビューを掲載した。さらに「M&A Online」で最近公開された同社のM&A戦略を組み合わせ、「過去」「現在」「未来」を探った。

樋口武男会長が語る私の使命


日刊工業新聞2013年12月24日/25日/26日「関西とく論」より


 大和ハウス工業は2013年度も売上高が2兆5500億円、営業利益が1500億円と、過去最高を更新する見通しとなった。「大和ハウスはなぜ強いのか?」と問われるが、真っ先に役職者のやる気を挙げたい。業績評価制度なので会社に貢献すれば給料が増え、部下の面倒見がよければ役職も与える。役職者は社長から担当事業を任された“代理人”だ。適切と判断した案件には自発的に投資もできる。常に顧客の満足を考えればよく、上司を見て仕事をする必要もない。ひいきも派閥も一切ない。

 プレハブ住宅から出発し、一戸建て住宅、集合住宅、ビジネス、生活の分野へと新たな事業で成長してきた。今やグループは124社に上り5万3000人が働いている。事業環境は時代とともに変わるので、今までの延長線で仕事をしていてはとても食べさせられない人数だ。だから常に変化の先を読む問題意識とスピード経営が欠かせない。私は移動中でも布団の中でも事業のアイデアを考え、メモを取る。いけると直感し、新たに決めた事業も数多い。しかし、創業者でもオーナーでもないから“独裁”は決してしない。役員会でしっかり議論もする。

「アスフカケツノ」


 企業のスローガンはイニシャルにすると覚えやすい。大和ハウスが新規事業として挑戦するのは「アスフカケツノ」。アは安全・安心、スはスピード・ストック、フは福祉、カは環境、ケは健康、ツは通信、ノは農業だ。例えば福祉は、日本は2060年に人口が8600万人に減り、65歳以上の高齢者は40%に高まる。

 そのころには介護の人手もいなくなり、自動化するしかない。そこで私は常務の時に福祉事業を発案し、89年に立ち上げた。今ではその一つに、排せつ処理のロボットがある。下の世話をしてくれる人がいなくなるのだから、される方もする方も助かるだろう。

 人口が減れば農業をする人もいなくなる。そこで今考えているのが、ビルの中で農業をする“植物ビル”だ。将来は都会のビルも人口減や通信の発達による在宅勤務の増加で、どんどん空っぽになる。こうしたビルでロボットを使い農業をすれば、食料の自給率向上と若い農家に都会で働いてもらえる職場を一挙両得で確保できる。

 工場で植物をつくる時代なのだから、ビルでするのも同じことだ。このような時代は必ずくると思う。排せつロボットは海外でも喜ばれ、植物ビルも水を確保すればアフリカの食糧不足にも役立つだろう。

 既成観念にとらわれず半歩でも世の流れを先に読めばいろいろアイデアがわき、スピードを上げて他社より先に手を打てば事業もうまくいく。大和ハウスは創業100周年の2055年に売上高10兆円を夢見ている。

 まだ2兆5000億円台の会社としては途方もない数字だが、「どうやれば10兆円に増やせるのか?」と考えればさらに知恵がわく。国内は人口が減り稼ぐのが難しくなるから国内4兆円、海外6兆円の割合が理想だ。

 不動産事業だけでは人手がかかって大変だから、単体で売れる製品もほしい。それはロボットが担ってくれる。特許を持ち代理店販売すれば、海外でも独り歩きで商売できるようになる。10兆円を目指すにはもっと多くの人材と教育も必要になるが、できれば20年前倒しで達成したい。

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
大和ハウスはエリーパワーやサイバーダインに出資するなどベンチャー投資にも積極的。サラリーマンの経営者の中でも樋口会長のカリスマ性は際立つ。3年近く前のインタビューだが現在もまったく色あせていない。10兆円にはグローバルで戦えるサービスや商品が必要か。

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