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「ゴルフvs囲碁vs為替」異色のバトル、勝つのは誰だ!

安井信之氏(元ブラザー販売社長)に聞く「原理原則や真理には共通点がある」
 ―ゴルフと囲碁と為替のそれぞれを「面白さ」「歴史」「国際性」などのテーマごとに論じ、その内容にスコアを付けて競わせるという一風変わった内容です。執筆のきっかけは。
 「2015年春に南山大学大学院を卒業しMBAを取得した。MBA取得者がいる海外企業と戦うには日本企業もMBA取得者がいないと対抗できないという話を、ある米国人にされて、実際にMBAがどのようなものかを確かめようと思い、勉強した」

 「卒業論文は為替レートの決定理論に対する考察をテーマにした。その際に改めて学んだのは、物事の原理原則や真理には共通点があるということ。それなら囲碁、ゴルフ、為替と別世界のものであっても共通点があるのではないか。それらで“対話マッチプレー”をすれば面白いと思い執筆した」

 ―全く異質な物から共通する真理を探っていくという観点がユニークですね。
 「囲碁はギブアンドテイクの世界だが、5を捨てて10を取るよりも、10を捨てて11を取ることの方が難しい。それを極めることが重要。同様のことを示す格言はゴルフにもある。ゴルフも囲碁も為替のことも知らない読者の方から、『生き方の参考になることが書いてある』と言われて大変うれしかった」

 ―文中で為替について「国力平価説」を語っていますが、その理由は。
 「為替レートは自国通貨と外国通貨の購買力の比率で決まるという『購買力平価説』と、自国通貨と相手国通貨の名目金利の差で決まるという『金利平価説』が為替の2大理論。だが、それらに関係なく、国力の差で動く時期がある。この『国力平価説』を提示したのが私の卒論だった。これから数年間のドル円は国力平価説に基づき、購買力の比率でも金利差でもなく、日米の国力の差で動くと見ている」

購買力平価説や金利平価説の役割は終わる


 ―国力とは何かを示すものとして、ジョージタウン大学のレイ・クライン教授の研究を本の中で紹介しています。
 「教育水準、国の安定性といった定性的な要素を数値化したものと、GNPや人口など定量化が可能な指標を用いて国力を示す方程式が先人の研究にある。この国力の説明を客観的にできるように、もっと本の中で詳しく書きたかったが、時間的にも紙幅の面でも間に合わなかった」

 ―そうなると、次の著作は国力をテーマにした本になるのでしょうか。
 「私の最後の本として執筆に入っている。ドル円の将来を両国の国力差から考察する本にしたい。今、いろいろな資料から国力を示す定量的なデータを調べている。国があるから為替があるのであって、為替があるから国があるわけではない。購買力や金利の差ではなく、国力に差があるから為替が動く。ドル円に関しては購買力平価説や金利平価説の役割は終わり、これから数年間は日米の国力のマッチプレーで動く局面になるだろう」
(聞き手=名古屋・江刈内雅史)
『ゴルフVS囲碁VS為替―異色のバトル 勝つのは誰だ―』(日本文化出版)
【略歴】
安井信之氏(やすい・のぶゆき)元ブラザー販売社長・会長。60年(昭35)慶大法卒。63年ブラザー工業取締役、83年2月副社長、同年11月ブラザー販売社長、95年会長。99年に退任。ゴルフはハンディキャップ0、囲碁はアマチュア8段の腕前。15年南山大院ビジネス研究科を卒業。著書に「日本のゴルフは世界の非常識」(日本文化出版)「オーガスタのルーツは南アフリカにあり」(同)がある。愛知県出身、78歳。
日刊工業新聞2016年7月25日「著者登場」より
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
安井氏がMBAで学んだことのひとつに「客観的データの分析・検証などに基づいた説明で、皆が情報を共有する」ことがあるという。その成果が生かされたのか、この本に出てくる「ゴルフ君」「囲碁君」「為替君」は各テーマごとの自らの優位性をデータをもとにした説明でPRする。読んでいるうちに人を説得する際の論理の組み立て方や、3者に関する豆知識が蓄積される毛色の変わった著作だ。 (日刊工業新聞社名古屋支社・江刈内雅史)

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