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東芝、3次元フラッシュメモリー量産へ。AI技術でサムスン追撃に自信

ビッグデータ活用し歩留まり改善。懸念は資金力「今のところは自力で」
 東芝は不適切会計問題に端を発した構造改革を経て、2016年度を成長に向けた第一歩と位置づける。成長戦略の中核を担うのは半導体事業。主役となるのが、3次元(3D)構造のNAND型フラッシュメモリーだ。15日には四日市工場(三重県四日市市)の3D専用の新製造棟が完成し、本格量産を始める。一方、先行する競合の韓国サムスン電子は、巨額の増産投資を相次ぎ仕掛ける。東芝の新製造棟の稼働は量産競争の幕開けとなる。

 「NANDメモリーが成長のドライバーだ」。6日に開かれた東芝初の投資家向け説明会の冒頭、綱川智社長はこう力を込めた。期待を裏付けるのが、3D構造NANDの量産開始だ。

 NANDの18年度までの設備投資額は、計8600億円。NANDにおける3D製品の生産比率を17年度に50%まで引き上げるほか、量産を始める48層品に加え、17年に64層品の量産も視野に入れる。17年度は新たな製造棟の着工も予定。集中投資で一気呵成(かせい)に競争優位性を高める。

遅れは半年程度、うまくいけば立ち上げ相当短縮


 15日に竣工する新・第2製造棟は、東芝で初となる3D構造NANDの量産拠点だ。一方、先行するサムスンは14年に量産を開始。市場で現状9割以上のシェアを握る。メモリーの最大の武器となるコスト競争力でも、一段優位な立場だ。しかし東芝で半導体事業を統括する成毛康雄副社長は「遅れは半年程度ではないか」と、追い上げに自信をみせる。

 その根拠の一つが、積み上げてきた生産技術力。「どうすれば歩留まりが上がるのかがつかめてきている」(成毛副社長)。15年からは人工知能(AI)技術を四日市工場に導入し、ビッグデータを活用した歩留まり改善を実施。一定の成果が見えてきた。調査会社IHSテクノロジーの南川明主席アナリストは「大規模工場では世界でもほぼ初めての取り組み。うまくいけば立ち上げ期間を相当短縮できる」と評価する。

 サムスンは同時に増産投資も積極化する。17年までに2兆円超を投じ、京畿道華城工場や京畿道平沢工場で3D構造NANDの生産ライン新設を計画。矢継ぎ早に手を打つ。

分社化で外部資金の活用はあるか


 一方、東芝の最大の懸念が資金問題だ。サムスンが増産投資を仕掛ける状況で競争するには、東芝にも継続的な設備投資が必要となる。市場は当面安定しているとの見方が強いが、変動性の高さが常の半導体ビジネスでは、機動的に資金投入していく必要がある。成毛副社長も「毎年決まった額を投資すればいいのであれば問題ないが、そうではない」と難しさを明かす。

 しかし不適切会計問題とそれに伴う構造改革で、財務基盤は弱体化。タイミングをとらえた投資ができなければ、成長シナリオは崩れてしまう。外部から資金調達する分社化は一つの可能性だが「手元資金はまだ残っており、今のところは自力でやれる」(成毛副社長)。懸念を払拭(ふっしょく)するにはまずは3D構造NANDを軌道に乗せて、稼ぐ力を高めることが不可欠となる。

 3D構造NAND市場のけん引役は、中国スマホとデータセンター(DC)だ。IHSテクノロジーの南川明主席アナリストは「大容量化ニーズが高く、特にDC用サーバー向けが急激に立ち上がっている」と説明。来年以降も安定成長が見込まれる。また「現状はサムスンしか供給者がおらず、製品の不足感は強い」(南川主席アナリスト)。価格下落のリスクも低いとみる。

新興の中国メーカーが波乱要因


 3D構造NANDは現在、サムスン、東芝、韓国SKハイニックス、米マイクロン・テクノロジーを中心とした4陣営が主要プレーヤーだ。そこに加え数兆円規模の予算で半導体の内製化を政策として進める中国勢が、投資を強化している。

 ただ先行するサムスン、その次を追う東芝以外は「自力での技術のキャッチアップは難しいのではないか」(同)。今後は合従連衡が活発になりそうな一方で、過剰投資による価格下落も将来のリスクとして懸念される。

 海外メーカーに比べ3年で計8600億円という東芝の投資規模は小さく映るが、南川主席アナリストは「十分戦える規模だ」と分析。「NAND市場が安定しているうちに生産規模を拡大し、うまく回せるようになるかがカギだ」とする。
(文=政年佐貴恵)

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
次期社長候補でもあった成毛氏が副社長にとどまったのは、分社化の選択肢を現実的に考えている(分社会社のトップになるため)からだろう。もちろんできれば単独で成長したいはず。ただサムスンを追い抜くのは実質的に難しいのと、やはり財務状況はいかんともしがたい。連携相手を見誤らないことが肝要。

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