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三菱自動車のサプライヤーは日産との提携をチャンスに変えられるか

(追記あり)燃費不正問題を逆手に技術を磨いて自立を目指すたくましさ
三菱自動車のサプライヤーは日産との提携をチャンスに変えられるか

ゴーン社長と益子会長

 「日産自動車との資本提携をビジネス拡大のチャンスと捉えていただきたい」。三菱自動車の益子修会長兼社長は1日、水島製作所(岡山県倉敷市)周辺の部品メーカーに、日産との取引が多い部品メーカーとの競争激化を懸念するより、成長の好機と捉えて前進するよう促した。

 三菱自は日産と5月に資本業務提携で基本合意し、車両や部品の共同開発、共同購買などでシナジーを引き出す方針を示す。三菱自の2015年度の世界生産は約120万台、日産は約522万台。水島周辺の部品各社は生産規模で4倍以上の日産との取引が広がる可能性がある。

受注するには経営体力を蓄える必要


 一方、日産が共同購買を主導することになれば三菱自の調達も日産の影響を受ける。行政関係者は「日産は世界最適調達を掲げ、国内の調達でもアジアから輸入する部品と比較される」とし、競合相手は国内だけにとどまらないと予想する。

 また三菱自と日産の両社と取引がある保安部品メーカー社長は「世界展開を見据えた共通車台『グローバル・プラット・フォーム』への対応も求められる」と指摘。日産は一つの車台から複数の車種を同時期に世界の各拠点で立ち上げており、海外拠点の拡充や品質を安定させる現場力も要求される。同社長は「資本提携は事業拡大の好機だが、受注するには経営体力を蓄える必要がある」と予想する。

 「三菱自との取引は全体の2割以下。供給が止まった軽部品の従業員は、他社の部品を生産するラインに振り向けて対応した」(駆動系部品メーカー)。燃費不正問題による生産停止後の対応は三菱自との取引の依存度で分かれた。資本提携後も依存度が高ければグローバル化への対応など三菱自の戦略に左右され続けるが、「取引先を広げられれば経営の自由度も高まる」(保安部品メーカー幹部)との指摘もある。

 生産停止で従業員を岡山県外の工場に派遣するなど対応に追われたプレス部品メーカー幹部は売上高の6割を超える三菱自への依存を反省。「軽量化など開発を強化して競合他社より0・5ミリメートルでも先行することが重要だ」とし、技術を磨いて販路を広げることによる“自立”を目指す。

ドライな面もあるがフォローも手厚く


 「日産の調達担当者は頻繁に当社の工場に来て原価低減活動に取り組んでくれる」。ともに複数社と取引する部品メーカー幹部は日産は三菱自より訪問頻度が高く、物流を含めたサプライチェーン全体でコスト削減に取り組んでいると指摘。「日産の調達は“ドライ”な面もあるが、フォローも手厚く鍛えられる」と明かす。

 燃費不正問題を機に水島周辺の部品各社は厳しい競争環境が予想され、変化が求められている。駆動系部品メーカーの管理職は暗くなっても進むか止まるしかないとし、「やる気があるなら明るく頑張るしかない」と前を向く。
日刊工業新聞2016年7月6日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
500万台超の生産規模にもまれた日産自動車系部品メーカーとの調達競争が本格化する三菱自動車の水島製作所(岡山県倉敷市)周辺の部品各社。電気自動車(EV)など次世代環境車の開発競争が本格化するなか、軽自動車で培った小型・軽量化技術の需要は今後も高まる見通しだ。水島周辺のある部品メーカーは日産が関東から九州に生産拠点をシフトする際、九州に生産拠点を設けずに現在も関東周辺の工場から輸送している部品メーカーも存在すると指摘。「岡山の”地の利”をいかして日産の九州向けの部品も取り込みたい」と、この難局を攻めの姿勢で乗り越えようとする底力を感じた。 (日刊工業新聞社第一産業部・西沢亮)

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