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米AIベンチャーに出資したソニー。外部の“知”を入れた理由とは

AIBO発売から17年、自前主義を捨て新しい事業の創出に挑む
米AIベンチャーに出資したソニー。外部の“知”を入れた理由とは

半導体の生産効率向上などにもAI研究が役立てられている

 ソニーはこれまで、イヌ型ロボット「AIBO(アイボ)」や二足歩行ロボット「QRIO(キュリオ)」などの開発で人工知能(AI)技術を発達させ、事業に応用してきた。次に狙うのは、AIを使った事業開発だ。5月、AIに特化した米ベンチャーであるコジタイ(カリフォルニア州)への出資を決定。“好奇心を持ち自ら継続的に学ぶAI”を共同で開発する。外部の知を入れてAI技術を深化し、全く新しい事業の創出に挑む。

自社技術に自負はあったが・・


 ソニーがAI研究を始めたのは1990年代前半。アイボやキュリオの開発などを経て、物事を予測して学習し、自律的に発達するAIの実現を目指した。06年にロボット事業から撤退した後も開発は継続。顔認識や音声認識、対話、運動技術などを確立した。

 その技術はデジタルカメラが笑顔を自動検出してシャッターを切る「スマイルシャッター」、テレビ番組や楽曲の推薦機能、家庭用ゲーム機「プレイステーション4」にログインする際の顔認証などに使われている。不良判定など製造現場でも活用している。

 人間の脳の構造を模したディープラーニング(深層学習)や、行動に対して与えられる報酬を基に学習する強化学習など、自社でAIの先端技術を積み上げてきた自負はあった。

 しかし、藤田雅博バイスプレジデント(VP)は「技術をさらに発展し既存事業以外の領域でアイボのような新しいモノを生み出すには、他社との連携による技術の深化と補完が必要だ」との認識を明かす。そこで選んだ相手が、コジタイだ。

コジタイ、深層学習の才能は突出


 同社は15年9月に設立。創業者の一人、ピーター・ストーン社長は、ロボットの自律動作などを競う「ロボカップ」を通じ、90年代から藤田VPやソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明社長らと交流がある。

 ストーン社長からコジタイ設立の話を聞いたのを機に、提携話は一気に加速。メンバーの才能は突出しており「ソニーがもっと連携すべきだ」(藤田VP)との認識が強まった。コジタイが抱えるAI研究者の人脈も魅力だった。最終的にソニーが20%ほどを出資することで合意した。

 コジタイは深層学習と強化学習を組み合わせ、人間が与えたデータではなく周囲の環境を自律的に認識、学習して知能を高める「コンティニュアルラーニング」(継続学習)の確立を目指している。ソニーとコジタイは今後、実世界の環境を判断し、自ら好奇心を持って学び続ける次世代AIを共同で開発していく計画だ。

 例えば、デジカメに応用した場合、これまでの利用履歴や周囲の風景を基に、ユーザーとは異なる新しい視点の撮影方法を提案することも可能になるという。

 今はテーマの選定や人材体制などを議論している。「まず一つのテーマは早めに立ち上げたい」(藤田VP)としており、夏ごろまでには研究に着手する見通しだ。3年後の事業化を目指す。

 「ソニーの強みは実世界で動く機器を生み出す点だ」(同)。次世代AIを活用し、これまでになかった製品やサービスを生み出せるか。挑戦が始まる。
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2016年6月20日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
ソニーのロボット事業に対しては色々な見方や意見があるが、そのノウハウや手がけてきた人材は今もソニーに存在し、当時からの人脈があったからこそ記事中にあるコジタイとの連携につながったことも事実。外部の知を取り入れて新しいAIの歴史を作りだし、ワクワクするようなモノやサービスを生み出してほしい。株主総会で平井一夫社長が口にしていた「スマホの次の世界」と組み合わされば、面白いことになりそうだ。

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