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旭化成、欧州市場で自動車部材の総合提案は生きるか

ドイツに営業統括と技術支援拠点を設置。今後はグループで一体で
 【独デュッセルドルフ=鈴木岳志】旭化成は欧州地域で自動車部材事業を拡大する。2025年度に同地域の売上高で15年度比3倍の21億ユーロ(約2457億円)を目指す。ドイツで機能性樹脂の技術支援拠点を10月にも開設し、独フォルクスワーゲン(VW)やBMW、ボッシュなどに売り込む。業界では三井化学もドイツに研究拠点を置くなど、化学メーカーの欧州開拓の動きが活発になっている。

 旭化成はドイツ・ドルマーゲンにエンジニアリングプラスチックの技術支援拠点を10月にも新設する。高い耐熱性や摩耗特性を生かして、自動車のエンジン周辺や電装部品、ドア部品などへの採用を働きかける。

 車の電子化や自動運転の実用化を見据えて電子部品の現地対応も強化する。センサーや音声処理ICなどで、欧州の顧客ニーズに併せて開発・設計できる体制を築く。

 このほか環境対応車向けとして、低燃費タイヤ用合成ゴムや電池用絶縁材(セパレーター)を売り込む。15年に買収したセパレーター世界大手の米ポリポアが鉛蓄電池用セパレーターで欧州に強い顧客基盤を有しており、その顧客網をグループ全体で最大限活用する。さらに人工皮革なども拡販する。

 4月にはドイツ・デュッセルドルフに欧州営業統括拠点を開設し、現地体制を整えた。併せて完成車メーカーとしてVW、BMW、ダイムラー、アウディを、自動車部品メーカーとして独ボッシュ、独コンチネンタル、仏ヴァレオ、米ジョンソンコントロールズを重要開拓先に定めた。

 旭化成は従来、製品ごとの販売を主体としてきた。今後は旭化成グループ一体となって関連製品を総合提案する方針だ。

小堀社長インタビュー「営業利益率10%を目指したい」


日刊工業新聞2016年5月31日



 2025年度に売上高3兆円を目指す旭化成の新たな船出は希望と不安が入り交じる。15年度は片や過去最高の営業利益を上げ、片や子会社の杭打ちデータ改ざん問題で世間からの逆風にさらされた。新中期経営計画が始動する4月1日に社長に就いた小堀秀毅氏に今後の方針を聞いた。

 ―中計で25年度の売上高営業利益率を9・3%(15年度8・5%)に設定しました。10%の大台はやはり難しいですか。
 「売上高3兆円、営業利益3000億円と書こうとしたが、足元の為替と中国の景気減速が引っかかった。正直に言えば、目標は10%だ。3兆円にもこだわっていて、今後10年で売上高を1・5倍にしたい。(円高進行などで)発射台となる16年度の業績が下がるので、あまり欲張ってもいけない」

 ―マテリアル部門の成長を推進するのが自動車関連。25年度に売上高を現状比3倍に拡大させる計画です。
 「単なる汎用品では付加価値を取れない。競合の少ないユニークな製品、例えば、センサーなど電子デバイスを先兵として提案して付加価値を生み出す。自動車関連の営業利益率は10%を目指したい。車に限らず、マテリアル部門の新規事業は基本的に10%が目標だ」

 ―住宅部門は4月の請負住宅受注が前年同月比12%減でした。
 「住宅事業全体における杭打ち問題の影響は早期に最小限に収まるだろうし、抑えたい。広告宣伝も4月下旬から勢いよくやりだした。そう遠くないうちに対前年並みに戻る。5月の受注から回復基調が見えてマイナス幅が小さくなり、6月から(前年並みの)期待を持っている」

 ―00年以降、経営を支える新規事業があまり育っていません。
 「03年に純粋持ち株会社制に移行し、従来の事業中心の用途開発と大型M&A(合併・買収)で成長させてきた。今後は我々の強みを生かした研究開発をベースに新しい事業をもっとつくる。持ち株会社制により組織が7―9事業会社に分かれた結果、リソースの分断やテーマの絞り込みができなかった。(4月に実施したマテリアル部門の)事業統合は3年前から考えており、むしろ1、2年遅いくらいだ」

【記者の目・多角化の真価問われる】
 収益変動の大きなマテリアル部門を補う“孝行息子”だった住宅部門の不安要素は無視できない。広告自粛などの影響は1年後に出てくる。住宅部門の海外展開を急ぐとともに、マテリアル部門の収益力強化とヘルスケア部門の成長で旭化成という“家”を支え合う構図が必要だ。業界屈指の営業利益率10%へ多角化の真価が問われる。
(聞き手=鈴木岳志)
2016年6月17日
米山昌宏
米山昌宏 Yoneyama Masahiro
旭化成グループには、3つの大きな事業セグメント「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」があり、マテリアル分野では旭化成が化学品を、旭化成エレクトロニクスがエレクトロニクス分野を担当している。自動車用には、旭化成がポリアミド、ポリアセタール、変性PPE、ABS/ASの高機能性ポリマーを、旭化成エレクトロニクスがリチウムイオン二次電池(LIB)用製品及び半導体沖積回路を供給している。エコタイヤに使用されるソリューション法SBR(S-SBR)は日本とシンガポールで生産しており、昨年シンガポールプラントの生産能力を倍増した。グループの強みを生かした総合提案型の事業展開は、海外でも高い評価を受けるであろう。

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