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エアバス、受注残との“旅”

主力工場から垣間見える余裕と焦り
エアバス、受注残との“旅”

主力のハンブルク工場では17年半ばに生産ライン

 欧エアバスが主力小型機「A320」(標準150座席)など旅客機の増産を急いでいる。ここ数年の好調な受注もあり、現在の生産能力では10年かかる受注残を抱える。さらに、新興国市場の成長で将来の需要増加も見込まれる。主力工場を置くドイツ・ハンブルクを訪ね、取材を進めていくとエアバスの余裕と焦りが垣間見えた。

LCC台頭でハンブルグに新ライン


 ハンブルク市街地から車で南西に40分。航空機の滑走路を備えた巨大工場で、エアバスはA320の最終組み立てを手がける。同工場の生産ラインは現在3本だが、2017年半ばに4本に増やす。

 併設の事務棟で開いたイベント。冒頭でトム・ウィリアムス最高業務責任者(COO)は「新しいラインにより、力強い成長が可能になる」と意気込んだ。最初に増産への具体策を発表したことが、本気度の表れと言える。

 年間1000機受注すれば当たり年とされる中、エアバスは11年以降、12年を除いて1000機以上を受注。14年の1796機は過去最高となるなど、記録的な好況に沸いた。中国、東南アジアの経済成長、格安航空会社(LCC)の台頭が大きい。

 そのため、受注残は5月末時点で6759機に積み上がった。現在の生産能力では作り終えるのに10年以上かかるため、増産に躍起になっている。受注残の8割を占めるA320系の月産能力を、現在の42機から19年に60機に増やす計画を掲げる。

(受注残の8割をA320系で占める=最新小型機「A320neo」)

機体塗装など生産技術革新に着手


 その手段は主力工場の増産だけではない。ハンブルク工場から車で北西に1時間ほど。A320などの垂直尾翼を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で製造するシュターデ工場(ニーダーザクセン州)を訪ねると、生産自動化を着々と進めていた。

 CFRPは軽さと強さを併せ持ち、旅客機での採用が広がる。同工場はCFRP製部品の製造において、エアバス社内で最先端をいく。

 自動化をさらに推進すべく、最新中・大型機「A350XWB」(276―369座席)の主翼の一部(カバー)をCFRPで製造する加工機械を、独企業の最新型に更新した。カバーを1・2センチメートル間隔で高速に貼り合わせ、従来の約半分の時間で完成できる。

 A350XWBは主翼や中央翼など機体の53%もの部分をCFRPで構成する。CFRPの加工能力を高めることで、5月末時点で778機の受注残の生産を急ぐ。

「自動車」のラインを参考


 旅客機生産は自動車に比べると自動化が遅れている。部品点数が300万―400万点と多く、加工が複雑な旅客機では、ロボットなどの自動化設備の導入が難しい。

 だがシュターデ工場では、垂直尾翼の組み立てラインで鋲(リベット)打ちの多くを自動化した。生産技術担当者が「自動車の生産ラインを目指している」と説くなど、自動化を推進する。

 機体の塗装など生産技術の革新にも取り組む。垂直尾翼にインクジェットプリンターの要領で塗装する新型機械を導入。3月に英国の旅行会社系航空会社納入した機体で、初めて新型機械を採用した。

 垂直尾翼に複雑なデザインを塗装する場合、手作業も必要になるなどコストと時間がかかる。新型機械はプリンターと同じようにインクタンクから塗装色を作り、垂直尾翼を左右に往復して塗装する。

 自動化により所要時間を大幅に短縮できる上、塗装部分の重量を軽くし、インク消費量を減らせる。将来は胴体全体の塗装にも、同様の方式を採用する構想を持つ。

(垂直尾翼塗装の自動化も進める)

<次のページ、足元の受注は一段落>

日刊工業新聞2016年6月10日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
2016年1―4月の受注が117機と、好調だった15年同期を下回ったことについて、ジョン・リーヒー顧客担当最高業務責任者(COO)が「心配していない。受注残が数多くある」と強気の姿勢を示している。リーヒーCOOは16年の受注ペースの低迷を「仮予約金を受けた多くの受注残がある。キャンセルの心配もない」という。14年に1796機と過去最高を受注、15年も1139機と高水準だった。ただ競合の米ボーイングも1―4月の受注は200機を下回り、人員削減を断行する。両社ともこれまでの受注ペースが続くかは不透明だ。

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