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日本の電子部品メーカーは技術革新の波に乗り続けられるのか?

日東電工を襲う、液晶から有機ELへの変化。
日本の電子部品メーカーは技術革新の波に乗り続けられるのか?

日東電工社長・髙﨑秀雄氏

 スマートフォン向けフィルムなどを柱に右肩上がりを続けてきた日東電工が、成長の踊り場にさしかかっている。2016年3月期は減収営業減益を余儀なくされた。17年3月期も液晶パネル用偏光板やタッチパネル用酸化インジウムスズ(ITO)フィルムなど電子部品(情報機能材)の減少で、当期利益は前期比約15%減の700億円で5期ぶりの減益となる見通しだ。髙﨑秀雄社長に17年3月期の見通しや新しい収益事業について聞いた。

 ―16年3月期は4期ぶりの減収営業減益、17年3月期も減収減益の計画です。
 「16年1―3月に米国の大口顧客が減産した影響を受けたほか、為替が円高に振れた影響もあった。シェアが高いので減産の影響も大きい。情報機能材事業の一本足打法との指摘もあるが、大きな利益を稼いできたのも事実。これまで打った手が間違いだったとはいえない。16年度(17年3月期)計画は為替影響がなければ、減収減益にはならない。米国の顧客向けは底を打ち、6月から新機種の生産が立ち上がるので期待している」

 ―スマホ市場の成長が鈍化し、液晶ディスプレーは有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)に置き換えが進む見方もありますが、影響はありますか。
 「スマホの成長は鈍るが、高価格帯を狙う戦略は一貫しており、シャオミやファーウェイといった中国メーカーのハイエンド製品向けの受注も取れている。17年後半から始まると見られる有機EL向け偏光板については、偏光板の枚数は減るが、高機能品になり、ITOフィルムの枚数が増える。全体の販売額も増えるだろう」

 ―17年3月期は事業構成を変革する1年と位置付けています。特にメディカル事業は売上高が前期比約3割増の310億円と成長しそうです。
 「4年前に買収した米国子会社は、核酸医薬受託製造の需要が旺盛で、2―3割の生産能力増強を決めた。肝硬変治療用核酸医薬の開発も18年の実用化を目指している。16年度(17年3月期)中に肺線維症用の治験開始を申請する予定で、肝硬変用の実績を生かして19年にも実用化したい」

 ―車載、航空機、鉄道、船舶向け事業を統合した「トランスポーテーション事業部門」の現状について教えてください。
 「車載向けの振動防止用テープ材は、アルミニウムボディーが増える北米で伸びている。各種センサー向け低誘電基板やヘッドアップディスプレー(HUD)用フィルムも開発している。航空機は防錆テープなどメンテナンス用で、米国に続き欧州へも入り始めた」

【記者の目/収益落とさず事業構成改善を】
 中国で液晶パネル向け偏光板の前工程工場の設置を検討中で、今期中に決断するという。投資は抑えつつ付加価値の高い需要はしっかり取り込みたい考えだが、中国の景気減速やスマホ市場の成長鈍化に注意が必要だ。業績変動を抑えるため、営業利益の約6割を占める情報機能材への依存度を下げる必要がある。メディカルや車載など新事業の成長を加速して、収益を落とさずに事業構成の改善を進めたいところだ。
(文=大阪・錦織承平)
日刊工業新聞2016年6月10日
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
スマホ市場で惨敗の日本企業だが、個々の部品や材料に限ると強さが際だっている。タッチパネル用フィルムなどを手がける日東電工も、そんな企業の代表格。長年にわたって培ってきた、一見地味だが渋い技術が基盤だ。ユーザーの栄枯盛衰にさらされながらも、常に新たなアプリケーションを開拓し続けてきた。だからこそ技術革新の激しいIT業界の中でも、しぶとく成長を続けている。

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