ニュースイッチ

ロボット・AIの物流変革で見落としてはならないポイント

人に着目した時の課題洗い出し。どんな目的でスマート化・データ活用するのか
ロボット・AIの物流変革で見落としてはならないポイント

GROUNDが扱う自動搬送ロボット「バトラー」は在庫棚を動かす

 国内の物流現場が変革を迫られている。これまでは紙の伝票と手作業が中心で労働集約型産業の典型だったが、生産人口の減少により雇用の維持・確保が難しくなった。一方でインターネット通販市場の成長で扱う荷物が増え、物流オペレーションは複雑になるばかり。そんな中、ベンチャー企業や大企業がロボットや人工知能(AI)を使った課題解決の提案を始めている。

「バトラー」7台を1ユニットで運用


 在庫棚を動かす自動搬送ロボットを活用してピッキング作業の効率化を提案しているのがGROUND(東京都江東区)だ。自動搬送ロボット「バトラー」は、7台が1ユニットで既存倉庫の1区画を試用エリアとして運用。クラウドコンピューティングで運用管理し、ピッキング作業を効率化できる。自動倉庫や搬送装置のように膨大な初期投資を必要とせず徐々に拡大できるため、電子商取引を始めたばかりの企業に向く。

 GROUNDは最新IT技術で物流の課題を抜本的に解決する「インテリジェントロジスティクス」の普及を目指し、2015年4月に設立。「その志とタイミングが良い」と元ソニー会長の出井伸之クオンタムリープCEOが顧問に就任した。

 ロボットを活用した物流システムを提案するため、GROUNDはバトラーを手がけるインドのベンチャー企業のグレイオレンジから出資を受け、経営者も受け入れた。5月には岡村製作所(横浜市西区)と資本提携。岡村製作所が扱うノルウェー製自動倉庫型ピッキングシステム「オートストア」を組み合わせたシステム提案に乗り出す。

 ロボットベンチャーのDoog(茨城県つくば市)は、人の後ろを追いかけ120キログラムの重量物を搬送できるロボット「サウザー」を通販事業者に提案している。サウザーはレーザーセンサーと制御技術で人や他のサウザーの後ろを追いかけつつ重量物を搬送。リード線で引っ張ることや床に貼ったテープの上を無人で走らせたりと、いろいろ搬送スタイルをアレンジできる。ピッキングと搬送で大まかに1・6人分の働きをする。

分析する人のスキルに依存せず


 Doogは産業用包装資材を扱うタナックス(京都市下京区)と業務提携し提案活動している。タナックスの中川雅臣執行役員は「サウザーは誰でも簡単に使える。物流現場は人手不足が深刻で、ロボットが作業を代行できるなら必ず普及する」と自信をみせる。

 日立製作所は棚を搬送するロボットだけでなく、独自の人工知能によるピッキング作業の効率化も提案する。日立製のAI「日立AIテクノロジー/H」は、物流倉庫のピッキング作業での実証実験で時間ごとのカートの動き、棚の集品、生産性実績をもとに最適な方法を提案し、人手作業の効率を約8%改善した。

 作業内容を変えず、全体の人の動きを効率化する集品指示をAIが出すことで達成したという。一般的なデータ分析と違い、分析する人のスキルに依存せず、人では全く思いつかないような着眼点から業務改善できる。

 日立はロボットやAIの機能をフルに生かせる管理ブース「次世代コックピット」も開発した。多数の画面とカメラにパソコン、サーバーで構成。現場に設置した複数のカメラ画像から3次元マップを作り出し簡単な操作で現場の状況や人の動き管理系システムのデータを補足できる。搬送ロボットのシミュレーションやAIが導き出す業務改善のデータを現場の画面と組み合わせて表示でき、迅速に分析や検証作業が行える。

 物流は我々の日常生活のインフラとして重責を担っているが、自動化・効率化の余地がまだある。ロボットやAIによる現場の改善は今後一気に広がりそうだ。

(管理ブース「次世代コックピット」=日立製作所)

インタビュー・宮田啓友GROUND社長


 GROUNDの宮田啓友社長に物流分野へのロボット提案の狙いや今後の見通しを聞いた。
 ―なぜ物流システムのベンチャー企業を立ち上げたのですか。
 「私自身がアスクルや楽天で物流を担当した経験から、世界に負けない物流システムが日本の成長に必要だと感じていた。欧米の物流は進化している。日本もロボットやAIなど先進技術で現場を改革するべきだと痛感し企業を作った」

 ―インドの企業と連携した狙いは。
 「バトラーは情報武装したロボット。ハードの性能だけでなくソフトが優れている。かつ、設備固定でなく柔軟に運用できる。繁閑期に応じて台数を減らすことができ、余ったバトラーを別の現場で活用できる」

 ―事業の目標は。
 「上場を視野に入れており、売上高100億円を中期目標にしている。既存施設への新技術導入支援だけでなく新規施設のデザインやシステム構築も手がけたい。また、金融会社と連携し、物流施設・機器のリースやレンタルにも挑戦する」
(聞き手=石橋弘彰)
日刊工業新聞2016年5月25日
八子知礼
八子知礼 Yako Tomonori INDUSTRIAL-X 代表
かねてより提唱している通り、IoTやAIが着目すべきは"ヒト"。人の稼働の可視化を通じた効率化、人で不足の解消、人の能力を超える処理の代替など。Internet of "Things" だからといってモノばかり見ていてはその本質を見誤る。人に着目した時の課題をちゃんと洗い出してそれをネットワークにつないでどんな目的のためにスマート化/データ活用するのか、を考えるべき。

編集部のおすすめ