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テレビメーカーに“4K”の次はあるのか?

ネット対応、高音質化で訴求狙う
テレビメーカーに“4K”の次はあるのか?

昨年発売したソニーの4Kテレビ

 テレビメーカー各社の高付加価値路線が鮮明になってきた。付加価値の筆頭として期待されているのは、フルハイビジョンの4倍の解像度を持つ「4K」画質。ただその4Kも普及に伴い、急激な勢いで価格下落が進んでいる。テレビ事業の収益性向上に向けた次なる一手を模索する各社は、画質に加え音質や操作性など他の訴求ポイントも増やそうと、差別化戦略にしのぎを削る。テレビは新たな魅力と価値を打ち出せるのか。

 「手広くやるのではなく、付加価値を求める人にターゲットを絞る」―。ソニービジュアルプロダクツ企画マーケティング部門の長尾和芳副部門長は、こう断言する。同社は狙う市場を高価格帯で区切り、それを下回る層には手を出さない。収益性を重視した明確な戦略を基盤に、画質と音質、ユーザーごとの多様なニーズに対応するソフトウエアを付加価値の軸に据える。

ハイダイナミックレンジが来る?


 力を入れるのが、輝度の幅を拡大する「ハイダイナミックレンジ(HDR)」と呼ばれる技術だ。従来、着目されてきた解像度や色ではなく、明るさを拡張することで、くっきりとした明暗を表現できる。「4Kが一般化してきた今、その次を手がけねばならない」(長尾副部門長)。HDRは2016年から本格的に市場が立ち上がるとされており、他社もこぞって注力する。

 55型以上の画面の大型化が進んでいるのも、付加価値戦略を加速する背景の一つだ。大画面化が進めば映像の没入感や臨場感が大きな要素となり、画質はもちろん「音質が大きな要素を持つようになる」(同)。CDよりも解像度の高いハイレゾ音源への対応に加え、月内に発売する新製品では、スピーカーの振動板に新しくカーボンファイバーを採用。より生に近い音を再現できるようにした。

 インドや南米などでは地域によって好まれる楽曲を徹底解析し、それに合わせたスピーカーを搭載したモデルも展開する。長尾副部門長は「オーディオ事業のノウハウを詰め込んだ」と自負する。

 パナソニックも月内に、同社として初めてハイレゾ音源に対応する新製品を投入する。事実、市場では画面横にスピーカーを配置したモデルの販売が好調に推移。音質が大きな差別化要素になってきている。

 ソフトウエアでも各社は工夫を凝らす。人工知能の技術を活用するのはシャープだ。テレビと接続することで視聴傾向などを分析し、おすすめ番組を音声で知らせる「アクオス ココロビジョンプレーヤー」を6月に発売する。学習により検索精度などを高めることが可能だ。

平均単価は2年で4割超も下落



 ソニーは15年に4Kモデルで米グーグルのテレビ用基本ソフト(OS)「アンドロイドTV」を全面採用。以来、インターネットとの親和性を高めたアプリケーション(応用ソフト)の拡充や、地域別のカスタマイズなどを進めている。

 高付加価値路線の動きは、世界シェアの3割以上を握る韓国メーカーでも目立つ。韓国サムスン電子は色の再現性を高める「量子ドット」技術を使った新製品を発売したほか、4月には次世代音声技術で米ドルビーと提携した。

 韓国LGエレクトロニクスは有機ELテレビで対抗。HDRの最高規格「ドルビービジョン」への対応や、独自の「ウェブOS 3・0」によるアプリケーションの拡充など操作性向上を強みに、上位価格帯の攻略を図る。同社日本法人の首藤晃部長は「高付加価値商品の需要は増えている。その流れに沿った商品を展開したい」と意気込む。

 調査会社のIHSによれば、全世界の4Kテレビの平均単価は、この2年で4割超も下落した。中国など新興メーカーの参入も広がる中、価格競争からの脱却は主要メーカー共通のテーマだ。製品単独ではなく、映像コンテンツ配信企業との連携など、周辺要素も含めたトータルでの差別化が今後も熱を帯びそうだ。
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2016年5月3日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
テレビの競争軸はそこまで多くはなく、各社は限られた要素の中でしのぎを削っている。付加価値を追求する延長線で、テレビは「情報を映し出す窓」以上の価値を打ち出せるのか。コンテンツの中身もそうだが、どれだけ「経験」を提示できるかにかかっているような気がする。

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