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ソニー、デバイス部門の業績急ブレーキに2つの誤算

スマホ失速とカメラモジュールの自動化。低成長を前提に事業を組み立て
ソニー、デバイス部門の業績急ブレーキに2つの誤算

右は業績を説明する吉田副社長

 ソニーのデバイス部門の業績に急ブレーキがかかった。画像センサーやカメラモジュールが振るわず、2016年3月期連結決算で同部門の売上高は前期比0・9%増の9358億円(期初予想は1兆800億円)に留まり、営業損益は前期の890億円の黒字から286億円の赤字(同1210億円の黒字)に転落した。ソニーはデバイス部門を成長領域と位置付けており、吉田憲一郎副社長は「業績悪化を大変重く受け止める」と話した。

 背景には2つの誤算があった。一つ目はスマートフォン市場の世界的な成長鈍化だ。「1年前の業界全体の強気な認識に当社も乗っかってしまった」(吉田副社長)ことから流通や在庫の管理が疎かになった。

 二つ目はカメラモジュールの組み立てで自動化を進めたこと。歩留まりと利益率向上を狙った施策だったが、スマホ市場の成長鈍化という局面では「製品の仕様変更や、需要変動への対応力に欠ける」(同)という自動化の負の側面ばかりが目立ってしまった。

 スマホ市場は16年も販売台数ベースの伸びを維持する見通し。ただ吉田副社長は「低成長ステージに入った」と指摘し、「それを前提に事業を組み立てる」と説明する。足下では中国メーカーなどに向け拡販を図っており、「本格回復は16年度下期」とみる。

 デバイス部門では、主にデジタルカメラ向け画像センサーを生産する熊本テクノロジーセンター(熊本県菊陽町)が熊本地震で被災し生産を止めた。5月末をめどにウエハー工程は再稼働するが、未だ組み立て・検査工程は再開に向けた検証作業中だ。

 稼働停止により画像センサー事業のほか、熊本生産の画像センサー調達するデジカメ事業にも多額の機会損失が生じる可能性がある。地震保険で200億円までは補償されるが、「損失はその金額を超える可能性がある」(ソニー幹部)。

全社では3期ぶりに最終黒字。ゲーム・デジカメ好調


 ソニーが28日発表した2016年3月期連結決算(米国会計基準)は、当期純損益が1477億円の黒字(前期は1259億円の赤字)に転換した。当期黒字は3期ぶり。ゲームやデジタルカメラ事業が好調に推移したほか、スマートフォン事業の赤字幅が縮小した。電機5分野の合計で5年ぶりに営業黒字を確保。構造改革の実施と、高付加価値路線へのシフトにより収益基盤が固まってきた。

 会見した吉田憲一郎副社長は「構造改革の成果は出せた。今後は事業機会をいかに捉えるかのチャレンジだ」と語った。懸念材料はデバイス部門。スマホ市場の成長鈍化で画像センサーなどの販売が落ち、同部門の営業損益は286億円の赤字に転落した(前期は890億円の黒字)。

 また画像センサーを生産する熊本テクノロジーセンター(熊本県菊陽町)が熊本地震で被災し生産を停止した。5月末に一部稼働を再開する計画だが「多額の機会損失が生じる可能性がある」(吉田副社長)。17年3月期決算予想は5月24日に発表予定。
日刊工業新聞2016年4月29日付の記事に加筆
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
「成長領域という位置付けに変わりない」ー。厳しい局面が続くデバイス部門だが、吉田副社長はこう強調する。実際にソニーの画像センサー技術に対する業界の評価は上々。また画像センサー市場は自動車や監視カメラなどの分野に広がっていく見通し。 苦境を糧に競争力を高められれば、将来の力強い成長につながる。ソニーのデバイス部門にとって勝負の16年度となる。

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