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東芝の次期社長人事は経産省と銀行で意中の人は違った!?

事業再編にらみ“色の付いていない”綱川副社長の昇格固まる
東芝の次期社長人事は経産省と銀行で意中の人は違った!?

左から綱川副社長、室町社長、成毛副社長

 「綱川氏の“経営”実績を評価している」―。東芝の次期社長の人選について、同社指名委員会(小林喜光委員長=三菱ケミカルホールディングス会長)の委員の1人はこう話す。室町正志社長の後任に綱川智副社長(60)を昇格させる方向で調整が進む。

 東芝は不適切会計を受け、田中久雄前社長が15年7月に辞任。会長だった室町氏が急きょ社長に就いた。しかし室町氏は就任当初から「長くやるつもりはない」と発言していた。その後、批判の矢面に立ちながら事業売却や人員削減など進め構造改革に一定のめどをつけ、「1日でも早く社長を辞任したい」と周囲に漏らすこともあった。

 15年末あたりから指名委員会は、次期社長について構想を練り始めた。同委員の1人は「会長は外部から招聘(しょうへい)する案もあり得る。一方、社長には東芝の事業がわかる人物を選ぶ方が良い」と語り、内部昇格の可能性を示唆していた。

稼ぎ頭の半導体出身の成毛氏を推した銀行


 最終候補として絞られたのは綱川副社長と、同じく副社長の成毛康雄氏の2人。成毛副社長は東芝の稼ぎ頭である半導体事業を担当する。投資を抑制する東芝にあって、半導体メモリーの一種である「NAND型フラッシュメモリー」には16年度から3年間で累計8600億円を投じる計画を掲げており、「銀行は成毛氏を推していた」(東芝の社外取締役)という。

 一方の綱川副社長はヘルスケア事業、白物家電などのライフスタイル事業、経営企画を担当する。10年6月からの4年間は、東芝メディカルシステムズ社長を務め、同社の成長を主導した。今回の東芝での一連の構造改革では、自らの手で育て上げた東芝メディカルの売却を決め、その交渉でも手腕を発揮。指名委員会からの評価を高めた様子だ。

 綱川副社長の東芝での「色の付いていない立ち位置」(業界筋)も見逃せない要素だ。

全体最適への期待感


 東芝はNANDメモリー、原子力発電などのエネルギー、ビル設備などの社会インフラの3事業を中核に据え、経営再建を図る方針。日銭を稼ぐが収益変動の大きいNANDメモリー、利益を上げるまでに時間がかかるものの収益が安定しているエネルギーと社会インフラ。時間軸の異なるこれら二つの事業領域に対し、どう効率的に経営資源を投じていくか。その能力は、東芝の次期社長に必要不可欠な要素となる。

 綱川副社長は主力3事業のどこにも属していない中立的な立場にあり、東芝の再建の行方を注視する経済産業省は「綱川氏を推している」(同)という。東芝メディカルを成長に導いた経営手腕、東芝の全体最適を図っていきやすいとの期待感が、綱川社長の誕生を後押ししている。

前3月期、営業赤字6900億円に拡大


 東芝は26日、原子力発電事業の米子会社ウェスチングハウス(WH)の資産価値を見直し、2016年3月期連結決算(米国会計基準)で2600億円の減損損失を計上すると発表した。これに伴い東芝全体の同期の業績見通しを修正。営業損益は前回予想比2600億円悪化の6900億円の赤字とした。一方、東芝メディカルシステムズの売却益3800億円を計上し、当期純損益は前回予想比2400億円改善し、4700億円の赤字となる見通しを示した。

 東芝は同期の売上高を前回予想比7000億円減の5兆5000億円に下方修正。東芝メディカルと家電事業を売却したため。東芝は06年度にWHを買収、原発事業で「のれん代」に約3500億円の計上。不適切会計問題による資金調達コスト上昇を考慮。原発事業の価値を見直しのれん代の減損を決めた。

 3月末時点の自己資本比率は約5・5%。同日会見を開いた室町正志東芝社長(写真)は「いまだ財務基盤は脆弱(ぜいじゃく)。いろいろな資本政策を検討したい」と話した。

 また次期社長人事について「5月12日の決算発表までに報告したい」とした。パソコン事業の売却については「(富士通、VAIOとの交渉は)白紙に戻ったが、(売却に向け)粘り強くいろいろな検討をしている」と説明した。
日刊工業新聞2016年4月26日「深層断面」から抜粋/27日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
一部報道で成毛氏が有力と出ていたが、結構土壇場で決まったようですね。

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